とらキチ

レッド・ロケットのとらキチのレビュー・感想・評価

レッド・ロケット(2021年製作の映画)
4.5
「フロリダ・プロジェクト」もそうだったが、ショーン・ベイカーは現代アメリカの“リアル”の切り取り方がとても上手い。
舞台は2016年、アメリカ大統領選挙でトランプとヒラリーが争った年。口先だけで周囲を丸め込み、自分だけが這い上がる道を手繰り寄せようとする、嘘だらけの自己中なクズ男マイキーは、まんまトランプと重なるし、そんな彼に振り回される周囲の人達にしても「そりゃあ、“MAGA”を信奉して支持したくなっちゃうよねぇ…」と思えてしまうほどの落ちぶれ、プアっぷり。そんな彼らこそ、分断された“現代アメリカ”の片割れの象徴であり、“リアル”なのだという事がよくわかる。
それともうひとつショーン・ベイカーのスゴいところが“語らない語り口の上手さ”。もちろんストーリーはあるんだけど、芝居っ気を全く感じさせずに“あるがまま”を撮り、並べていく事で、気付けば“起承転結”が成立してしまっているところ。余分な説明といったものが一切無くても観ていれば彼らの状況や背景がわかってしまう。コレぞ編集の妙であり映像の力。映像と言えば、16mmフィルムによる粒子感やドーナツ店をはじめとした色彩の豊かさなロケーションショットも相変わらず素晴らしかった。
共感的なものは一切湧かないし、終いにはなんかブラブラさせながら走ってるし、むしろ嫌悪感しか出てこなかった主人公マイキー。でも、今作のあの“どん詰まり”な世界の中で、ただ1人“夢”を持って這いずりまわっていたのが彼。だからこそ、彼の事をなんか憎みきれない、そんな不思議な気持ちにさせられてしまった。だからといって、その“夢”が叶う事もコチラは決して望まないのだけど。
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