missileman

レッド・ロケットのmissilemanのレビュー・感想・評価

レッド・ロケット(2021年製作の映画)
3.4
初めて渋谷のヒューマントラストシネマで観た。スクリーンはお金持ちの家のテレビぐらい小さかったけど、ミニシアター然とした雰囲気が居心地良くて気に入った。

なかなか面白い。予定調和無しの日常系ダメ男映画。ポスターの感じはヒューマンドラマっぽいが全く違うのでそういうのが見たい人は止めたほうがいいです。セックスの回数とタバコの本数が尋常じゃないダメ男映画です。

スティーブ・ブシェミのTreesLoungeとか、ビンセント・ギャロのBuffaro66とか、日常系ダメ男映画って結構好きで、この手の映画って面白い確率高い説あると思う。

ロスから地元のテキサスに帰ってきた中年男が引き起こすちょっとした騒動のお話。
ドタバタコメディと書きたいところだが、本当にちょっとした事件しか起きない。ちょっとした事件しか起きないし、そこから物語が展開する事はなく、また日常が続く。ドタバタコメディを想像して観に行ったものの、教科書通りならばコメディもありつつ終盤はじんわりみたいな所がありそうなものだが、そんなきれいな起承転結などなく、なんというか悉く予想を裏切ってくる。
17歳の若い子に惚れて相手にされずに悪戦苦闘する話なのかと思いきやイージーに付き合えるし、気まぐれな年頃の若い子に振り回されて結局捨てられた末に最後に大切なものを見つけるんだな、と思ったらそんなことはないし、世間を騒がす大事件をきっかけにここから怒涛の展開でラストまで一気に行くのかと期待してもそれもまた裏切られ、と本当にセオリー通りにはならない。
登場人物達も同様で、主人公マイキーはダメ男なのはそうなのだが、そこまで突き抜けたダメ男でもなく、いいところもあれば駄目なところもあるといった感じ。かといって憎めない可愛さで妙に魅力的といったほどでもなく、普段の生活で出会いそうな程度のダメ男。そんな感じなので感情移入は余り出来ない。
主人公を取り巻く人々も、取り立てていい人でもなく、そこそこのクズさを持ち合わせているがそこまで悪人でもない。
何か話に振りが効いてて伏線回収があったりもしないしなあーでもなんかつまらないというわけでもないぞ。退屈で眠くなるということもないし…なんて思いながら観ていると、ラスト手前の主人公マイキーが追い込まれるシーンでも追い込む側のグダりっぷりと各々が好き勝手に喋る様を観てふと思った。
日本の番組のノンフィクションにそっくりだなと。
ちょっと訳ありだったりちょっと本人に難があったりする人に密着するドキュメント番組ノンフィクション。
もしかして人間や日常をリアルに描きたくて敢えてステレオタイプじゃない人物描写やお約束通りにならないストーリー展開にしているんじゃないか。そう思えてきた。
そう思うと全てにリアリティを感じてくる。
現実世界では出会う人々は程度の差こそあれ善悪混じった人が大半で、聖人のような善人や完全悪のような人物にはまず出くわさない。
人生で起きる出来事も人生を変えるような出来事はそうそうあるものではなく、良いこともあれば悪いこともあり、作り話のように綺麗な起承転結や劇的な事はまず起こらない。
予定調和を排除した結果こういう作りになっているんじゃないか。
そう考えると予定調和無しの日常系ダメ男映画としてリアリティがありなかなか良く出来た作品。
あ、マイキーが惚れ込むレイリーは魅力的。あと歌が上手くて普通に曲出してほしかった。
そして唯一の善人のロニーは可哀想。
missileman

missileman