レトーポ試験

ニトラム/NITRAMのレトーポ試験のレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
3.9
オーストラリア史上最悪の銃乱射事件であり、世界的に見ても稀に残虐な大量虐殺『ポート・アーサー事件』
をベースに単独犯マーティン・ブライアントの半生を描いたフィクション映画。題名の『NITRAM』はMARTIN(マーティン)の文字列を逆さにした蔑称らしい。そのマーティンを演じた主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズがめちゃめちゃ凄かった。大人になりきれず、反抗的でふざけたことしかできない子どもじみた一挙手一投足が異常で不気味。金持ち老女との奇妙な関係を通して、普通になろう、変わろうとする姿があってもうまくいかず、その苛立ちや煩わしさの矛先が事件を引き起こす結果に。とは言いつつ何がきっかけで事件を起こそうとしたのか分からないくらい淡々と物語が進んでいって、ただただマーティンの行く末を見届ける感じだった。銃乱射のシーンをどう描くんだろうと思っていたら、そこも銃を取り出すだけの淡白なショットだけで、殺害のシーンは一切映さない。あえてスプラッターな描写はせず、それまでの作品に流れる不協和音的な淡々とした雰囲気を最後まで貫いた演出は面白かった。それに加え無音のエンドロールがずっしり重かった。何となく『由宇子の天秤』を思い出した。無思想で動機不明瞭って言われているこの事件の単独犯を、映画としてうまく描いてるなーと思った。

監督の前作『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』と重なる点も多々あり。特に主人公のキャスティングと造形は完璧。どっちも本当に凄い。どっちの作品も大雑把に言えば、劣悪な家庭で育ったが故の…みたいな、。『ニトラム』は前作よりも面白さ、画の綺麗さ、構成等々で圧倒的に上回ってる印象。似たモチーフが続いたけど、次にどんな映画を撮るのか楽しみ!
レトーポ試験

レトーポ試験