レトーポ試験

オッペンハイマーのレトーポ試験のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
とりあえずこれ以上ないリッチな映像と音響、強靭なストーリーテリングは文句無し大好き最高。テクニカルな面においてドゥニ・ヴィルヌーヴが神の領域に行ったなあと思ってたけど、その領域に(しかもお先に)ノーランがいたのかも。人類に破滅する力を齎し、世界の形をまるで変えてしまった科学者。彼の半生をノーランが撮ってくれてよかったと心底思う。これ以上出来の良いものを作れる監督いないんじゃないかな。完璧だって言いたいわけではなく、何を描く描かないっていう過不足は人によっていろいろあるから難しいなという話。こうゆうシーンが必要だとか、ああゆう演出は不要だみたいな。
3時間という長尺のなかで想像以上の会話劇。神様が創ったような映像、音楽、音響を遠慮せず割る潔いい編集が見事。とは言え退屈する隙を与えないほどの速度は、字幕を読む人種を置いてけぼりにしかねないし、一回観ただけで掴める情報はそれほど多くはないかもしれない。監督が崇高な狙いをもって(不親切に)時間軸をシャッフルするもんだから、少なくとも内側の編集だけは映画的にテンポよく面白いものにしてくれたのかなと、ありがとうございます。
反戦反核の色が1番強い映画だとは思わなかった。あまりにも天才過ぎた科学者の栄光と没落をある程度主観的に描いて、それと対立する政治を流れに逆らって挿し込む。オッペンハイマーの好奇心と危うさ故に始まった破滅へのカウントダウンと苦悩。予告でも印象的だったアレは足を床に踏み鳴らす、人々が彼を、原爆の誕生を称賛する足音だった。加速して止まらない怖さと緊張感。
広島・長崎からは目を背けるオッペンハイマー、というその後のアメリカと重なる象徴的な姿。人類を滅ぼす存在は人類。何を手にしてそうなるかというのは、これに限った過去の話ではなく、今の話でありこれからの話だなと。この映画は何も讃えないし、何も断罪しない、イデオロギーも前には出さない。ジャッジを避けることは逃げではないし、これほど難しい題材にチャレンジしたうえでこれだけの評価を得てるだけでまずは拍手だなと。早く2回目観たい!!!
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