実録モノというよりは、『エレファント』に近いセミフィクションとして、犯行に及ぶまでの過程をていねいに描いた作品。このアプローチがよかったと思います。
『ウトヤ島、7月22日』のようにショッキングな事件をありのままに描いて問題提起する作品もありますが、この手法は諸刃の剣で、ショッキングな殺人シーンが「エンタメ」として消費される危険性も持ち合わせています。
その点、この作品の裁くような視線を向けない冷静さ、殺人自体は「見せない」判断には作り手の誠実さを感じました。
社会から溢れた二トラムの孤独・喪失・不安・焦り・劣等感は、自分にも覚えのある感覚でした。それだけに彼の希望がゆっくりと崩壊し、追い詰められていく姿を見ているのはつらかった。
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズの繊細で純粋さと危うさをあわせ持つ演技(それが大仰に見えないのがまた見事)が、逃げ場のない袋小路へと観客を道連れにしていきます。
もちろん彼に同情的な映画ではないことは強く言っておかなければなりません。しかし、彼と自分の違いはいったい何だろうと考えたとき、それは本当に些細なことでしかないと思えてきてしまうのです。
知らない誰かではなく、ニトラムを「よく知る者」として突きつけられる結末の衝撃は大きい。