よつ

ニトラム/NITRAMのよつのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
4.0
オーストラリア史上最悪の死者数を記録した銃乱射事件を描いた作品。
犯行自体よりも犯人の半生に迫る。

同じく銃乱射事件を扱った『エレファント』は被害者側の視点だったが、こちらは犯人を主人公に据え、生活環境や犯行に至るまでの背景・心の動きを細かく描いている。古谷実の『ヒメアノ~ル』を思い出した。

ニトラムもその家庭環境も極めて特殊というわけではなく、どこにでも居そうなこどおじ(子供部屋で暮らす中年)とその家族といった感じ。
閉塞感や人生への失望、周囲へのフラストレーションが限界に達し、こどおじは無敵の人となり破壊衝動が爆発する。

ヘレンの存在はさすがにフィクションだろうと思ったら、実在しててビックリした! 荒唐無稽に思えた富豪設定もそのままだった。
唯一の理解者ともいえる彼女ですら凶行を止められなかったのが悲しい。

ニトラムことマーティンには、終身刑35回・懲役1,652年という刑罰が下った。
銃の所持が認められているのに死刑が存在しない国。理屈では矛盾しないのだろうけど、やっぱおかしいと思う。
ニトラムみたいな精神疾患患者が銃器買えちゃうの狂ってるだろ。

余韻の残るラストシーンが素晴らしかった。母親の表情や仕草から静かな絶望が伝わる。
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