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インフル病みのペトロフ家のAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

インフル病みのペトロフ家(2021年製作の映画)
4.2
半ば夢だと気づいていながら惰性でみるシュールな夢のような。
熱に浮かされた時に見るぼんやりとした幻覚のような。
それがインフルだろうが何だろうが、病気の種類は別に何でも良くて。
いま自分が生きている現実と完全に乖離した幻覚ではなく、現実と地続きにある白昼夢。

これはキリル・セレブレンニコフによる『もう終わりにしよう。』だなとも思う。手法が。
ただ『もう終わりにしよう。』が老齢にさしかかった人間が見た、人生における後悔を拗らせた走馬燈のような映像作品だとしたら、本作は現在ロシアに生きる市井の人が抱く強迫観念が色濃く浮かび上がっている。
と同時に、子供の頃に毎日使っていた優しい手触りの毛布のような、淡いノスタルジアも存在する。

また独特のユーモアとホラー交じり合ったギャグもそこはかとなく面白い。バスに乗り
合わせた見ず知らずの老人の入れ歯。図書館に勤める主人公の妻が、特殊能力を持つ
時の黒目だけの瞳。

そんな、強迫観念とノスタルジアと奇妙なユーモアが渾然一体になったアート映画。
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