ツクヨミ

わたしは最悪。のツクヨミのレビュー・感想・評価

わたしは最悪。(2021年製作の映画)
3.0
自らの感情の機微に任せて生きていく最低で最高な私たちの人生。
30歳を迎えた女性ユリヤはパーティーで出会ったアクセルと恋に落ちるが…
ヨアヒム・トリアー監督作品。2022年アカデミー賞にて脚本賞.国際映画賞にノミネート、2021年カンヌ国際映画祭女優賞受賞など輝かしい世評な今作は、ヨアヒム・トリアー監督
の前作"テルマ"から続く人生の葛藤を描くスタイルが炸裂していた。
まず今作は三十路の主人公ユリヤの恋愛変貌録になっており、全12章とプロローグ.エピローグからなる彼女の人生の1ページを見ていくストーリーラインになっている。オープニングからいろんな仕事を始めてもすぐに辞めてしまい、なかなか人生の方向性が仕事面でも恋愛面でも定まらない自由さが実に現代的なユリヤのスタイルには共感できる点が多かった。しかし極端な好みや気分で突き進んでいきすぎるユリヤの行動に困惑してしまうこともあり、全面的な肯定は出来ず。だがこれが人間の本質だよねと考えれば、最低で最高な現代を生きる素直な我々の姿に重ねられるんじゃないだろうか。
また今作はトリアー監督の前作"テルマ"で顕著だった苦しい人間の葛藤を冷ややかに見せていくスタイルが共通している、しかし見れば見るほど主人公の感情がなかなかに理解しきれない点が感情移入できないのは確か。楽しい恋愛と苦しい恋愛は紙一重であるし、難しい点が大きくなってしまうが"テルマ"のほうが葛藤の共感度は高いと感じる。だが時が止まってしまったセカイ系の演出や、ビジュアルトリップなドラッグ描写など映像的に素晴らしい点はめちゃくちゃ評価できるかなと。
全体的に見るといろんな人が共感できそうでできない人生の苦楽さはなかなか素晴らしいし、トリップなど映像演出はけっこう楽しい。しかしホラー的映像演出と共感度高めの葛藤描写が際立つ"テルマ"のほうが個人的に好みだった。まあ今作は好きだけど別に好きじゃないみたいな不思議な印象を与える稀有な作品なのかも。
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