Mackeyホンダ

わたしは最悪。のMackeyホンダのネタバレレビュー・内容・結末

わたしは最悪。(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

マイフェイバリットな「イノセンツ」の監督が脚本を書いて、あのヤバい監督ラース・フォン・トリアーの親戚がメガホンを取ったってことで、「絶対に変な胸糞映画に違いない」と決めつけての鑑賞。

その姿勢が悪かったのは自覚しているが、意外と普通な作品(「変」ではないという意味で)という印象だった。

あの予告編もズルいよ。ほら、あの場面を切り取った予告編。キッチンのスイッチを押すとコーヒーを注ぐ恋人が静止して、それを見た主人公が大喜びで時が止まった街へ飛び出す場面。

こちとら「『イノセンツ』の脚本家」という前提がインプットされているんだよ。似たような超自然的ファンタジー作品かと思っちゃうじゃん。

序盤はずっと「それで、世界はいつ止まるんだ?」という構えで観ていたので、中盤、例のあのシーンがくるまでジッと待った。で、「ああ、そういう映画じゃないのね」と気づいたのがちょうど真ん中、1時間。「頭が真っ白になった」は大袈裟だけど、かなり戸惑った。だって中二病展開を期待した中二病オヤジが、それこそ突然「超現実的な恋愛」世界へ放り込まれたんだから。(しつこいけどおれが悪い)

ただ、結論を言うと「観てよかった」。
脳を現実モードにカチッと切り替えれば、ちゃんと物語に入り込むことができた。

主人公は奔放でわがままな女性に見えるが、実は正直なだけ。誰もが本音で思って蓋をしちゃうようなことでも、彼女は真剣に向き合って行動に移す。

医学部に入っても「医者はやりたくない」と思えばやめる。好きなものがわからなくても、嫌なことは嫌だという。好きになりそうな男性はすぐ試す。ダメならポイ。「一夜だけ」と名乗らず別れた浮気相手に、ふたたび偶然会うとウキウキして結局また会う約束をする。別れたくなったら別れる。

「刹那的」といえばその通りだし、本音で生きれば周囲を傷つけたりするけど「わたしの人生はわたしが主役じゃなきゃ」。ある意味で、その想いを生真面目に貫き通している。

個人的には関わり合いにはなりたくないけど(笑)、タイトルで「わたしは最悪。」って前振りされているので、キャラクターとして受け入れられた。むしろ、現実では見えない「女性の本音」の部分を行動や表情で見せてくれるから、すごく興味深く観られた。

特にあの場面はよかったね。ラスト、流産がわかったときの表情。ホッとしたような笑みを浮かべながらも、涙もひとすじ流している。一般的に「流産」は悲しい出来事なのに、どこか清々しい気分になっている。彼女はそんな自分も「わたしって最悪」なんて自嘲しながら受け入れるのだ。

……と、そんな話だったのかな、と思った。

映像も美しく音楽も心地よい。俳優もみんな素晴らしかった。予告編は詐欺だったけど、騙されなければきっとこの作品を観ていなかったわけだから、今は感謝している。

ヨアキム・トリアー監督。名前は覚えた。
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