masaya

コンパートメントNo.6のmasayaのレビュー・感想・評価

コンパートメントNo.6(2021年製作の映画)
4.2
一緒に行く筈だった恋人にすっぽかされて半ば意地みたいな北極圏への長距離列車旅。相席になったのがベロベロでウザ絡みしてくる酔っ払い男でもう最悪!ってなるけど案外いい奴で仲良くなる。袖ふれあうも他生の縁。大陸的大らかさに救われて、出会えば別れて人生は続く。

映像の大半がロシア国内の長距離寝台列車の車内なんだけど、赤の他人の男女が同室になってたり、指定席に一般客が乗り込んできたり、一晩停車する駅があったり(寝台列車の意味とは?)本当にいろいろと大らかでびっくりした。時代的にはソビエト解体から数年後くらいかな。

片やペトログリフという言葉を聞いた事もなく、片や鉱山労働がどんな仕事なのか想像も付かない。偶然列車で同室しなければ会うこともなく、そして別れた後も二度と顔を合わすことのない別世界の二人だからこその束の間の友情を、旅という人生の余白が生んだ。

そもそも酔っ払い男リョーハは何であんなに酔っ払っていたのか。何で列車で旅をしていて、何で途中駅のおばあちゃんに会いに行ったのか。どれも最後まで語られない。だってたかが旅先の出会いだもの。だけどラウラにも、映画の観客にも理解できる。彼の孤独が、彼の寂しさが。

北の最果てで、その先は吹雪と荒れた氷の海という場所で思いきりはしゃいで転がり回った。そしてラウラは都会に帰り、リョーハは鉱山に帰る。全ては元通り。だけど、きっと二人の心の中には自分だけの新しい部屋が出来ている
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