マサヨシ

かもめ食堂のマサヨシのレビュー・感想・評価

かもめ食堂(2005年製作の映画)
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断トツで、もたいまさこさん演じるマサコさんのキャラクターが好きだ。

空港に届かなかったスーツケースを携帯電話片手に、なぜか港で(時々服屋の中で)辛抱強く問い合わせる。

かと思えば「何か大事なモノが入ってたりしたんですか?」の問いかけに「大事なモノなんてあったかしら」と首を傾げる。思案顔のマサコさんに同調するようにカメラがマサコさんの背後から前に回り込む。

ようやくスーツケースが見つかったとの知らせを受けると「もう帰る頃だと思う」とだけ言い残し、かもめ食堂を去ろうとする。本来旅を共にするはずのスーツケースが、ここでは旅のゴールを暗示する。

スーツケースは恐らく両親を20年間もの間介護し続けてきたマサコさんの過去であり、やりたくないことをやらないといけない現実なのだろう。したがって「スーツケース」を、やりたくないことをやらなくていいフィンランドに持ち込むことはできない。

映画の終盤でマサコさんは、棺桶のようなスーツケースを引きずりながら階段をのぼり、宿泊先に移動する。サチエさんの家に厄介になる選択肢もあったにも関わらず、最後の最後までマサコさんは自己完結している。そしてスーツケースの蓋をあけ、中身が黄色い花のようなキノコで埋め尽くされているのを見て、それが文字通り「棺桶」だったことを知るのだ。ベッドの上で大きく口をあけた「棺桶」の中に眠るのは、マサコさんの両親だろうか。あるいは、あらゆるものをひとりで背負いがちなマサコさん自身だろうか。

余談だが、マサコさんは『ハッピーアワー』の芙美のキャラクターとも重なる。思えば、あの映画で私が一番好きだったのも芙美だった。

スーツケースの中身を確認したマサコさんは、やはりいつもそうしていたように港で電話をかける。「見つかったスーツケースは確かに私のものなんですけど、違うんです」。しかし、何とも奇妙な電話である。

マサコさんと同じく頻繁に港に訪れるおじさんも、やはりいつもそうしていたように腕に太った猫を抱えている。常にすれ違っていた二人が不意に向かい合い、猫はおじさんの腕の中からマサコさんの腕の中に移動する。あらゆるものをひとりで背負いがちなマサコさん。けれどもこの時、彼女は密かにサチエさんの店に居座るための言い訳を手にしている。何と言っても、サチエさんは太った猫に目がないのだ。
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