ワンコ

ヴィム・ヴェンダースプロデュース/ブルーノート・ストーリーのワンコのレビュー・感想・評価

4.3
【What A Wonderful World!/希望を捨てない】

It must schwing.
そっか、シュウイングか!😁

どんな差別や困難にあっても、それだけにフォーカスせず、出来るだけユーモアをまじえて笑いも忘れない。

そこには、壮絶な民族や人種への差別、そして、人生の苦難を乗り切るコツみたいなものがあるような気がする。

この作品は、第二次世界大戦前、ユダヤ人差別が先鋭化するドイツを離れ、アメリカにやって来たアルフレッドとフランシスが、同様に過酷な差別にあっていたアフリカ系アメリカ人(黒人)の音楽に魅せられ、その音楽を広め、発展させ、確固たるものにしていく物語だ。

ジャズは、おそらく知識とか教養などではなく、ホモ・サピエンスとして身体に刻まみこまれたビートやリズムを表現した音楽なのではないか。

だから、世界中にジャズクラブがあり、世界で多くの人々に愛されているのではないのか。

ただ、独り言だと思って読んでいただけたら幸いなのだが、昨年、2021年11月にNHKスペシャルで放送された「この素晴らしき世界 分断と闘ったジャズの聖地」をNHKオンデマンドで視聴できるので、良ければ、現代につながるストーリーとしてご覧いただけたらもっと感動できると思う。

この映画の中でもインタビューに応じるロレインは、アルフレッドと離婚後、グリニッジ・ヴィレッジにある最古のジャズ・クラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」のオーナー、マックス・ゴードンと結婚。
マックスの他界後は、彼女が経営を引き継ぎ、現在は、娘のデボラ・ゴードンがオーナーとなっている。
映画でも触れられるように、ロレインは、アルフレッドとの間に子どもをもうけることは出来なかったが、マックスとの間に生まれたデボラがジャズのスピリットを受け継ぎ、コロナ禍での18ヶ月及ぶ休業を経て、2021年9月14日、ヴィレッジ・ヴァンガードのリオープンに漕ぎ着けたのだ。3代続いた希望を守り通す…、デボラの言葉だ。

これにまつわる話が「この素晴らしき世界 分断と闘ったジャズの聖地」だ。

僕は、NHKスペシャルをかなり観てる方だと自覚しているが、この放送は、その中でも、目頭がとても熱くなる回だった。

このNHKスペシャルのもう一つのコアの物語は、コロナ禍の下で、黒人によるヘイトクライムの暴力を受け、肩や鎖骨を骨折して、再起が危ぶまれた日本人ピアニスト海野さんと、子供が盗みの疑いをかけられた黒人グラミー賞トランペッター・ハロルドが、再び活動を開始し、新たな音楽の取り組みを本格化させるまでも描かれている。

海野さんは、自分に暴力行為を働いたのが黒人だったことを知りつつも、それを人種のせいとはせず、差別や暴力と向き合い自問自答する。

怪我がなければというより、これを体験したからこその新たな曲作りも可能なのではないのかという前向きな姿勢だ。自分の曲に初めて付けた歌詞のメインは、「人生は、曲がり、揺れるけれども、壊れることはない」だった。

ヴィレッジ・ヴァンガードのリオープンの日、デボラと海野さんが再開する。

“怪我の話しは聞いて知っていたよ。また、いつか、ここで演奏してよ!”

胸が熱くなる場面だ。

アルフレッドとフランシスのスピリットも、こうして繋がってるのだと思わせる瞬間だ。

「What A Wonderful World!」は、黒人差別が吹き荒れていた頃に作られた歌だ。

希望の歌だ。

世界のあちこちに、ライブスポットが点在するジャズは、そんな音楽だ。
ワンコ

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