ニューランド

悦楽のニューランドのレビュー・感想・評価

悦楽(1965年製作の映画)
3.6
✔『悦楽』(3.6p) 及び『飼育』(3.5p)▶️▶️

 大島の、劇場用映画の3年沈黙を挟む、2本のあまり評価が高くはない作品。やってる事の可能性の無限·内的スケールに観る度に舌を巻く。
 政治と無縁に、内的犯罪動機と性の機微を扱かった、一見場違いの『悦楽』。上手い。映画と肌的な艶が滑らか、圧巻だ。大島はゴダールとは違い、学生運動家にして学生演劇主宰、大手撮影所育ち、且つ会社の幹部候補生、遥かに(商業)映画に熟れてる。基本上手さが違う。特に本作は、松竹の中心を任されても、魔球的変化球で観客にはアウトサイダー的に見せてしまう、野村芳太郎以上にはなったを確信させて、映画としてあまりに見事な、映画的達成度は大島の最高の作品だと、以前から思ってる。
 ケバケバしい色彩はまろやかに抑え、スロー·2~3重OLを通常描写と変わらず見せ、表情等のCUの置き場所と角度やタイミング対応の嵌り沈み込み方、縦や横への気づかない位の正確で絶妙カメラ移動、幻視か現実かその境が分からない再会感動や動揺描写、不思議な角度や濡れ触り感触の接触·最接近の対異性感覚、役者とその演出のうまさ·更に場や空気や細部を創り流してく感覚のスマートさ、上下やフォローのカメラのふらつき感·又はアングルやサイズの変化と適確さの一体化、松竹映画色にはまらない映画の名伯楽の道もあったはずだ。
 ただ、運命や意識の混乱や気儘流れ出しを描いてる本作は、心変りや本音の意外性が、不可解にうねりや逆流の瘤をつけていく形を示してるのだが、それを突き放して乾き一歩先の狂った世界自体を描けばまだしも、事態をそれなりに解明し自己流でも呑み込んで進もうとしてる、真っ当さも結構真剣に残ってる部分もあるので、中途半端に感じてしまう。やはり、習得した技術は大したものだが、ラジカルに対象を洗いつくし、突き抜けさせるのが、作家か個人としての本道なので、そっちで極めないと、という事か。とまれ、映画としては最高の大島作品か。
 家庭教師をしてた恋愛関係にもあったお嬢さんの結婚、彼女につきまとう男の始末依頼、実行を見られた男からの横領大金の服役中預かりの強要が続く。出所迄1年となり、お嬢さんの裏切りへの無為や復讐感からも、1年女を囲い放蕩を尽くして自殺、を思いつき実行へ。只どの、水商売絡みや、唖売春宿付、潔癖医師の女も、以前の男も絡んでるか、独自の矜持や身持ち本性で、永続きはしない。妙に理解しようと生真面目に考え、次に進むも内のキレは悪く淀むだけで、一年経つ頃、服役中の男病死、その同室だった男の自分を捜索中との偶然出会い、そして嫁ぎ先倒産危機で漏れ聞いた大金目当てに向こうから近づいてきたお嬢さんの現れ、金使い果しを聴いての警察へ全て通報は彼女、という理不尽続き、終焉·自己崩壊へ。
 石井輝男辺りが監督したらもっとメリハリや破天荒ついて面白くなった気もするが、純粋商業映画として、統一と魅惑の頂点にあり、大島の最高の映画だと観るたびに実感す。賀津雄のあまりの上手さは、大島の新しい可能性を約してる。もし、彼が次作で英助を演じてたら、てな想像も楽しい。
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 これに比べると、有名な原作を昔読んだ記憶はとっくにどっかに飛んでる『飼育』は、即物的·徹底め風土密着長廻しやアップ押さえ·美術構築力によって、戦前の‘本家’等が威風を染み込ませ曲げてる、部落共同体の実感とその根を描くに執心してて、映画的軽やかさが薄く、結構毎度圧迫を受ける。やはり、映画の魅惑はアンチ·ヴィスコンティや反ワイラーからくるものが、原則だ。
 昭和20年夏、山の小部落での、米墜落機の黒人操縦士確保と、報奨期待の監禁·引渡し用意。只、終戦間近で国家機能麻痺、本家と言いながら対分家と言うより、小作らに対する地主支配、で迷走が続く。そこから元より性も複雑大胆節度消え·乱脈、本家の傘下に位置確保と立ち回り、時に本家へ責任なすりつけ、結局は戦死家族恨みや·本人の厄介反抗姿勢を手懐け効かず、黒人を殺し、米支配転換にも向け、何もなかった摺合せ·誤魔化しで、皆了解の団円へ。街からの血縁疎開家の正さんと抗う違和感や、子供らの損得抜きの直接黒人へ愛憎、が対比される。
 家内中間サイズめでも、庭先退きめでも、山間部深い俯瞰回り込みでも、普通の区切りのない·ドラマを越えた尽きぬ付け加え·足し連ねの長廻しや大胆移動の息·意志が尋常でなく(1.5シーン=1カットの感覚。あからさま演劇的、すら超越)、シャーマン的俯瞰めの図の多さと併せ、映像化されなかった『~通り魔』序盤の狙いに近いものの原型か。曖昧状態中心で沸騰事件化は二の次。日本的共同体の主体なき互いへの侵食の腐敗と生き残り戦術の怪異。一方、不可思議も強い眼尻のアップの顔らや·風物イメージ(OLも)の、連打対峙·モンタージュの異様な力。ドラマよりも、そのベースの深い一体抜書きのような、力と鮮やかさの詰まり過ぎた作。昨年の名だたる批評家連のお墨付きの名作、観たばかりの『イニシェリン島~』より優れてる、と思う。大層·制作費に糸目付けぬ、あくまでテーマ達成目的に惜しみなく注ぎ込んでる大作とも成ってる。
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