牧史郎

春原さんのうたの牧史郎のレビュー・感想・評価

春原さんのうた(2021年製作の映画)
3.5
すごく好きだったような気もするし、すごく苦手だったような気もする不思議な映画。

でも、この映画を見たということを忘れないと思うから、重みのある作品になっていることは間違いないのかな。

ずっと心地よい時間が流れているんだけど、それがあまりに執拗かつ意図が見える感じで繰り返されるから、そのことへの居心地の悪さがも同時に感じてきてしまうという不可思議。

ただ、その体感自体が、テーマに合った演出であるとも言える。主人公が置かれている状況が、描かれている瞬間としては居心地が良いのだけど、根底において痛みを抱えているという設定なのだから。

誰かの痕跡が受け継がれていくという点において、コロナの時代だからこそ、一つのリコーダーを多くの人が吹いていくという演出は効いているとも言えるけど、同時に「えー、、さすがに、それするかな…汗」という抵抗感も生まれる。

おじさんと称する人物の異様なまでの優しさ(?)も、肯定的にも捉えられるけれど、「んー」という感じもする。

主人公の女性の端正な佇まいも、髪色が変わることや荒々しい習字の場面によって人間としての内面の多面性を表現できているとも言えるけど、「わりと綺麗な人だから成立しっちゃってるんじゃないの?」という意地悪な見方をしたくなった瞬間もあった。

すごく自然に感じられるところと、なんとなく不自然に感じられるところの共存は、ずっと窓を開け放っている設定からも感じ取れる。監督のインタビューで「ある種のSF」みたいなことを仰っているのを見て、そこはとても腑に落ちたな。

キノコヤに投射された映像を見上げる場面はすごくすごく素敵だった。

アピチャッポンや小津の文脈の中で語られていく作品になりそうだが、意外にもそういうシネフィル的なところだけではなく、映画にそこまで馴染みのない人たちにとって、深く愛され、長く生き続ける作品でもあってほしいと、なぜか願う。ごく普通の映画好きである自分の母親とかに見せて感想を聞いてみたくなったな。笑
牧史郎

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