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オーディブル: 鼓動を響かせてのdm10foreverのレビュー・感想・評価

4.0
【そして戦いは続く・・・】

第94回(2022年)アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞ノミネート作品。

この作品は聾唖(ろうあ)の若者たちが「今生きている世界」と「これから生きていく世界」について、悩み、ぶつかり、必死にもがきながらも強く生きていく姿を描いたドキュメンタリーです。

最近ね、「Codaあいのうた」から始まって、何かと「聴覚障碍」の方を題材とした作品、ドキュメンタリーをよく目にするようになった。
偶然なのか、それとも自分の中のアンテナが無意識のうちに多様な情報を拾い始めたのか・・・。
そんな流れの中で見つけた一本。

この作品では「アマレ」と「ジャレン」という青年たちを中心に、障碍を持つ若者たちが抱える情熱や苦悩、そしてそれでも前を向いて歩かなければならない理由について、製作側がきちんと向き合っていると感じました。

~アマレが所属する「メリーランドろう学校アメフト部」は42連勝という偉業を成し遂げていた。
彼らは「聾唖者」であること以外は普通のアメフト選手。
一度フィールドに立てば「障碍」など関係なく「平等なルール」の下に戦いそして相手に勝つだけ。
障碍を理由にするくらいならこのフィールドに立たなければいい。
彼らはあくまでも平等に戦うために「平等なフィールド」に自ら立つ。
そんなある日、突如途切れる連勝記録。
負け慣れていない選手達は動揺する。
しかし、落ち込む選手達の中から力強い声が響く。

「たった一度の負けで終わるようなチームじゃない!」

・・・実際の社会では、まだまだ「障碍者」に対する偏見、差別、イジメはなくならない。
彼らの幼馴染のテディは優しくて誰からも愛される人気者だった。
テディは高校入学のタイミングから普通校への転入を試みたが、やはり「健聴者との壁」は想像以上に厚く、やがて心を病んでしまったテディは自殺してしまう・・・。
ただ、この映像ではこれを持って「健聴者」との断絶や復讐を煽るような描き方はしないし、本人達もそっちの方向に思いが向かうようなことはなかった。

『テディの自殺』はアマレたちに「大きな傷」と「生きていく意味」を残した。

きっとこれからの人生においても差別を避けて通ることは難しいだろう。
問題はそこにぶち当たった時にどう対処するかだ。

彼らは今「聾学校」というカテゴリーで過ごしている。
アメフトという武器を引っさげて「健聴者と同じ舞台」で戦い、そして勝ち続ける彼らは「チーム」という結束の中でお互いを高め合い、鼓舞し合い生きている。
そんな彼らはとても強い。

だから健聴者のチームは彼らと試合をしたがらない。
もちろん「強い」から。そして「聾唖者」だから。
「聾唖者なんかに負けたくない」という見下した偏見がまだ健聴者の中に根強く残っているから・・。
そして、学校を卒業したらみんなは「そんな健聴者」だらけの世界に飛び込んでいかなければいけないという現実。

それでも決して卑屈にはならず「与えられた人生」の中で戦い続ける。

必要以上に感動を押し付けるのではなく、情報も極力控えて、目の前に映しだされる「彼ら」から感じ取ってほしいというタイプの作品なのかもしれない。
アマレはたくさん話してくれてたけど(笑)

ジャレンは「聾唖」であり「ゲイ」でもあるんだけど、もしかしたら彼が一番イキイキとしてたかも・・・。
テディが初めての「彼氏」だったってこともあって、その話をする時はとても辛そうだったけど、でも、どんな時も周りのみんなを明るくしようとするジャレンを見て、本当に強い子だな・・・って感じた。

「障碍の有無」で何かを評価するようなものではないけれど、彼らは障碍と向き合って、そして戦う。
それは決して相手を倒すためじゃなく、自分が自分として生きるため。

やっぱりアカデミー賞にノミネートされるだけあって、構成は最後までぶれずに筋が通っていたと思う。
あと何気ない風景が映るシーンがとても美しくて印象的でした。
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