影屋れい

くじらびとの影屋れいのレビュー・感想・評価

くじらびと(2021年製作の映画)
4.5
『くじらびと』。世界で唯一捕鯨が許されている村、それがインドネシアのラマレラ。この村での鯨(マッコウクジラ)と人の関係は密接である。…とは言っても人が鯨を欲するのであって鯨は人を欲してはいない。そう、人間が生きるために鯨を一方的に捕食しているだけである。
只、これは生きることであり自然的には仕方がなく当たり前のことなのだ。当たり前の事を描いているだけに心に響くものがある。
作中で鯨漁に挑む船はお世辞にも頼もしいとは言えない。
言い方が悪いが原始的で木っ端のような様な存在だ。
使用する銛も4メートルはあるそうだが頼りない。これで本当にあの巨大な鯨が仕留められるのか?と些か不安になる。…が、その不安要素満載の中で《ラマファ》と呼ばれる銛打ち…ハンターは、その身一つで己の数倍はある鯨に挑む。正に命懸けだ。実際に劇中でも言っていたが命を落とすことも少なくないという。無謀とも思えるしバカバカしくもある…こんな原始的な手法を4百年も前から続けているというのだから。しかし、命と命が向き合うには必要なのだと思い知らされる。愚かしく思えるこの行為こそが必要なのだと。お互いに大事なものを奪い合うのだから。
実際に鯨が死ぬさまは実にショッキングだ。
鯨は仲間が襲われる際には必ず助けに来るという。
その通りにやって来る事実とそれから起こる悲劇には思わず叫び声を挙げそうになった。だがこれはスクリーン上の無関係な出来事ではなく我々の生きるための日常なのだ。そこに非難などする理由もない。出来ようはずもない。

青い海に広がる赤は美しかった。

それが命の消えていくさまだとしても。残酷ではあるが生きることとは…を考えさせられる作品でした。






…ちなみにこの村は《海豚》さんも採るそうです。
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