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The Son/息子のmasatのレビュー・感想・評価

The Son/息子(2022年製作の映画)
3.5
残念ながら、生きるのは恐怖の連続だ。
恐怖しかない、と言っても良い。
「苦しむのに、疲れた」
強烈な台詞が、10代の青年から出る。
大人も同じだ。しかし、若き芽、苗から発せられるのは、異様である。人間は、どこか間違っている、間違ってしまうのだ。

ただ、ちょっとだけ、一握りのアレがあるから、人間は生きるのをやめない。その瞬間は、永遠にこびりついて離れない。それを頼りに、それを支えとし、生きていくしかない、生きていける。
誰もが多かれ少なかれ抱える、アノ輝かしい光射す、アノ時があれば、何事も乗り越えられる、と信じたい、信じよう。

最愛の人から、
「出来ないんだよ、生きることが!
 吐きそうだ、父さん!父さん!」
こんな言葉が吐き出される地獄の瞬間があっても、乗り越えられる、そう信じよう。

前作、“父”は、なかなか良くできた幻想ホラー、だった。
結局は、なかなかの小手先芸を重厚に扱うからこそ、ヒューマン・ホラーとして、絶望の淵に観客を立たせ、そのままカメラは引いて終わった。

さて、本作は、その程度の恐怖ではない。
苦しむことに疲れ、生きることが出来ない!と救援信号を送る、10代、まだまだ世界を知らない若き苗の悲痛な眼差し、それを受け止められなかった大人の恐怖、だ。
この思い出は、アノ思い出と共に、永遠にへばりついて離れない、まるで呪いである。
前を向く女は、ラストに言う、
生き続けるの、まだまだ続くのよ!
と。
地獄を背負い、違った生命と光射す方へ、果たして人間如きの力で行くことができるのか?

この監督、クライマックスで、またヤリやがった。

だよね・・・

でも、前作より、よっぽど素直に受け止められる。
グザヴィエ・ドランも、ヤッていた。
あの、“親”の、あの夢のような幻想、こうなって欲しい!と願う幻の現実。もう来ない、未来。結局、本は書かれない。
死は、待ってくれない、くれなかったのだ。
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