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私ときどきレッサーパンダの都部のレビュー・感想・評価

私ときどきレッサーパンダ(2022年製作の映画)
4.5
最近のディズニー映画の中では随一の完成度だと思います。いわゆる毒親とその庇護下に晒される娘の距離関係における問題をコメディ調の物語と共に適切に提示しながら、それを踏まえて年相応の自分らしさに対する渇望が齎す素晴らしさを語ることで、未来ある少女としてのこれから人生への祝福ひいては報われない過去として存在する少女だった人生の救済を見事にそれらを同時に果たしている一作である。

まず主人公であるメイのオタク趣味──対象となるのはティーンズ向けのアイドル──の配置が現代的な設定として呑み込みやすいのがあり、それに対して『軽薄である』とか『淫らである』とか ともすれば大人として当然の指摘のように語られる母の主張も分からないではない……程度の意見として置かれているのが印象的。そういう一種の正当性を傘に着た親のあくまで個人的な方針と子供はどう向き合うべきかという問題にかなり真摯に取り組んでいるのが本作の特徴で、多層的な象徴性を持った"レッサーパンダ"への変身が、その問題の解法の潤滑油として機能しているのとかよく練られた話だなと感心させられましたね。

親よりも優先したい関係として置かれる友情も地に足の着いた描写なのが好ましく、価値観を共有できる間柄の希少性/かけがえのなさがよく伝わってくるんですよね。だからこそその対極の位置に存在する親を気持ちの上で悪として据えてしまうし、でも親だからこそ理想を裏切ることに対する気持ちのせめぎ合いだったりが、葛藤の強固な軸として物語を支えていて2時間弱の人間ドラマとして豊かさを感じる筆致なのも好み。

大興奮間違い無しの終盤の展開が特に大好きで、少女に突き付けられる最後の問題提起を滑稽なスペクタクルな構図で盛り上げながら、力強い自己肯定と家族に対する優しき相互受容を果たすオチでもうこれは拍手ですよ。不通な関係性にあった娘と母の距離感を多くの意味で解きほぐすことで、最後に示されるこの家族の相互理解の形にしっかりとした重みを付与しているのも素晴らしい。非常にいい映画です。
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