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ある学生のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ある学生(2012年製作の映画)
4.8
【カザフスタンの「罪と罰」】
カザフスタンのタルコフスキーことダルジャン・オミルバエフ監督がドストエフスキー「罪と罰」に挑んだ作品『ある学生』を観ました。『The Road』に引き続き、厳格なカメラワークが凄まじい大傑作でありました。

映画の撮影現場、カット!と掛け声がかかり、休憩時間に入る。ジャーナリストはすかさず監督の間合いに入りインタビューを始める。下っ端は、豪華絢爛とした女優にお菓子と紅茶を差し出す。テーブルはないので、彼の手がテーブルとなっている。監督にカメラは切り替わりインタビューが展開される。すると、ガシャンと音がなる。カットが切り替わると、紅茶がブチまけられている。どうやら女優にこぼしてしまったようだ。怒った女優はマネージャーに電話して撤収する。黒づくめの男が現れると、「お前か?」と言い、下っ端を連行しリンチする。ドライな暴力と空気が魅せる階級差。インディーズ映画でありながら、ロベール・ブレッソンのような厳格なショット群を観ると、映画学校の学生が観たらインスピレーションが掻き立てられるのではと思う程に凄まじい。

オミルバエフ監督の手や動きへの拘りがドストエフスキー特有の閉塞感を引き出していく。『The Road』もそうだが、彼がワンポイントアクセントとして銃を取り出すと、さらにキレが増す。

本作なんといっても小売店の店主を殺害する場面の流れが感動を覚える。メガネを掛けた陰キャラ学生は、何度も小売店に入って殺しを試みようとするが殺せない。いよいよXデー。一度、店を出た彼は息を整えて再入店し殺害する。そこへ、偶然にも女性が入り込んでしまい彼女も殺害してしまう。店に出る。メガネ男の焦燥にフォーカスを当てる。別の客がさらに店に迫る修羅場が畳み掛けてきて、絶妙なバレるかバレないかサスペンスが展開される。上手いこと脱出するものの、犯行現場にビニール袋を忘れてきてしまう。この生々しい詰めの甘さがリアルさを引き出し、その後唐突に警察が訪ねて来る場面では、彼のいる空間からでは警察の目的が分からない構図を生み出し不安を増幅させる。夢の場面では、家族が鋭い眼光で彼を見つめながら車を走らせる無機質な不気味さを作り込み、罪意識に悩まされる青年の静かな葛藤を紡いでいく。

ダルジャン・オミルバエフ監督はアテネフランセでもいいので特集されてほしい。ロベール・ブレッソンやアンドレイ・タルコフスキー好きが多い日本の映画ファンに刺さる監督であること間違いなしだ。
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