柊

カード・カウンターの柊のレビュー・感想・評価

カード・カウンター(2021年製作の映画)
3.5
役者もいいし、カメラもいいし、ストーリーも悪くない。でも私は途中眠気に襲われた。

元々何の話かよく知らないで鑑賞。ムシヨ帰りのギャンブラーの話かと思いきやさに在らず。もっともっと深く重い話だった。

アブグレイブ捕虜収容所と言えば,もうアメリカの恥部と言っても過言ではありますまい。正義感の強いオスカー・アイザック扮する上等兵が民間の上官ウィレム・デフォーにそそのかされて間違った価値観を植え付けられる…からの展開。結局罪に問われたのは,囚人と平気で写真を撮っていた(この価値観を上官のせいにするのも何だけど)彼のような現場の兵士のみ。上層部は全く罪に問われなかった。で、8年の刑期を終え出所してから〜の展開。でもその狭い空間で過ごすムショ暮らしが意外に本人に馴染んでいたと意味深な事を呟く。

オスカー・アイザックが演じるウィリアムは過去を悔い改め,ムショで覚えたギャンブルで生計を立てているが、緻密な計算のもとブラックジャックの攻略法を持ちつつも決して大勝ちはせず目立たないように禁欲的な生活をおくる。その象徴が借りたモーテルの安い部屋をあらゆる装飾品を片付けて,白いシーツで覆い,麻紐で縛っていく。その行為が芸術的に美しい。
一箇所に長居をせずに同じ事を繰り返す日々はある意味修行僧のようでもあったが、それが過去の贖罪であるかのようだ。それでもある日、陽の当たる場所で何事もなかったように活躍するかつての上司,ゴード少佐を見つける。それにより蘇る収容所での己の行為。同じ罪で父を失った青年カークも加え、再生の道を歩み模索しつつ,結果は最悪な方向へ。
かつて覚えた拷問の仕方をゴード少佐と実践するシーンは声のみながらおぞましい。後半30分くらいでそれまでとは全く違う展開になるが、再び収監された刑務所での生活がウィリアムにある意味平穏な精神を保たせているのがなんとも…
ただ今回は、面会者がいる事による救いがある。

質は高いのに何か今ひとつ乗り切れない私がいる。それはウィリアムは加害者ながら被害者と同じようにPTSDに苦しんでいる。それはひとえにアメリカと言う国の持つ本当の闇の創造者を罰せる事のない構造にどこか白けてしまうからなのかもしれないなって思った。切り捨てられるのは弱い者たちでしかない。USAと叫んでいたアメリカ代表のギャンブラーが本質も分からず叫んでいるのと同じだ。

オスカー・アイザックの出演作品はあまりこれまで見てなかったけど、ジョージ・クルーニーに時々堀部圭亮が入っているように見えるのは私だけ?
柊