マインド亀

カード・カウンターのマインド亀のレビュー・感想・評価

カード・カウンター(2021年製作の映画)
4.0
●BLACKHOLEにて、高橋ヨシキさんがスパイダーバース回で「今回(の『カードカウンター』)はポール・シュレイダーバースのカノンイベントが起こります」と言っていたのがとても面白かったので、『魂のゆくえ』に引き続き劇場で鑑賞してきました!ヨシキさんの仰るとおり、ポール・シュレイダーにしか作れない、観たことあるカノンイベント満載の最高傑作でした!

●そういうわけで、恐らく内容としては孤独な男が一人過去の罪を背負いながら、現代社会への不満を爆発させてバイオレンスな展開をするものだろうと思い、全く前知識を入れず、キャストすら知らずにに観に行きました。
まさかスター・ウォーズで間の抜けた明るい前線兵士のポー・ダメロン(オスカー・アイザック)が、孤独で潔癖なトラウマを抱えた男を演じていたとは思いませんでした。治癒することのないPTSDを抱えた男が、異常なくらい自分の痕跡を消しながら生きながらえている姿、そして心のなかにくすぶった炎を抱えながら行き場のない怒りを必死で抑えている姿をオスカー・アイザックが最高の色気と怖さと優しさを溢れさせながら演じていて最高でした。
いきなりラストの話になるんですが、ヒョイッと同じテーブルの囚人のおかずを盗んで、当然ボッコボコに顔面を殴られるんですが、血だらけの歯を食いしばって顔を相手に向けて目をひん剥くところは、自ら許せない罪を背負った人間の怖さを体現していて印象的なシーンでした。
そんな男がほんの少しだけ、日常的な平和や愛を感じて満足げな表情を浮かべる一瞬がありました。この男はもし、あのアブグレイブ収容所の体験がなかったのならば、こういう平凡な幸せを手に入れていたのだろうか、と思うとなんとも胸の締め付けられる辛さを感じました。

●また!絵面としてはとても地味ながらも、全く好きのない画面構成や色使いによって終始異常な不穏感を感じました。特にアブグレイブ収容所のVR風撮影は観客を異常な地獄めぐりに没入させ、人間をゴミのように扱う異常な悪夢を追体験させられました。また、なぜか印象的だったのはプールサイドのシーンでしたね。手前には割とおさなめのカップルがずっとふたりで青春真っ盛りで喋ってる中、奥の方でおっさんと大学生が『最近いつセックスしたの?』などという青春とは程遠いめんどくさい内容の会話をしている、対象的な二組が一つの画面にうまく収まっているなんともおかしみのあるシーンでした。

●ウイリアム・テルのホテルでの異常な行動や、やけに字のきれいな日記をつける習慣、何よりカードゲームでの恐ろしく落ち着いた振る舞いなど、明らかにポール・シュレイダーバースの住人らしい主人公でしたが、それでも優しく愛を持って包みこんでくれるのがやっぱり女性という、近年では少なくなっている、希少な男っぽい映画だと思いました。めちゃくちゃ面白かったので、是非観てください!
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