都部

LAMB/ラムの都部のレビュー・感想・評価

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
1.9
喩えると『起承て』の段階でそれらしい終幕を迎える本作はやはり数多くの点から不足感を覚える不完全な出来である一方で、説明を最小限に抑えたからこそ母という存在が子供に与える無性の母性愛に垣間見える狂気を表面化させることにはかろうじて成功している。

(この後味はアザロヴィック監督の『エボリューション』を思い出す)

アイルランドの山間部を舞台とした自然豊かなショットの数々は、観客をあくまで一時的に画面に釘付けにするが、その自然体を趣とした見せ方にはそれほどの映像としての芸を感じず、早々に興味関心は獣人アダの進退に寄せられる。が、本作はそれを担保とした牧歌的生活の様相が物語の大半を占めており、この寓話的とすら言える物語としての飾らなさ/捻りの無さを思うと面白味に欠ける映像の継ぎ接ぎを奇天烈な要素でそれらしく纏めているに過ぎない。
110分弱の映画の構成としては至らなさばかりが目立つのである。

このそれらしいモチーフの挿入は『それらしい』以上でも以下でもないのが徐々に明るみになっていくため、映画それ自体が興味の持続を放棄した作りに思えるのも悪印象だった。
元ネタはギリシャ神話に登場する半獣半人の精霊:サテュロスと考えられるが、その豊潤たる自然の化身として描かれる存在の弄び方も半端で、自然を象徴する存在として『アダ』が存在感を発揮するでもなく、アダの位置エネルギーが物語上で皆無に等しいのもやはり考えものだろう。

獣人という自然の摂理に反する存在を庇護下に置くことを『禁忌』と定義するとしても、それを意識させるカットは断片的にすは語られることなく、最終盤で物語にピリオドを打つ為に現れたとしか思えない存在により処理されるのは端的に脚本が巧みではないのではないだろうか。

かような寓話的な物語を自然体を趣きとして作る意図は理解できるが、映画として世に送り出す以上はそこに作品として呑み込ませるだけの努力が取られるべきであるように思う。それをせずとも作品としてこの話を成立させる、言わば卓越したセンスは残念ながら本作には見い出せない。
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