高卒派遣社員

スープとイデオロギーの高卒派遣社員のネタバレレビュー・内容・結末

スープとイデオロギー(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

独身の娘が年老いたオモニの老後をどのように世話していくのか。中年での結婚が家族にもたらす変化。ある意味で現代日本が抱える普遍的な家族の課題が浮かび上がってくる。そこに在日コリアンのコミュニティが経験してきた大きな歴史と、個人が経験してきた小さな歴史が絡み合う。(歴史を大小に喩えたのはあくまでも”視点”についてであり、どちらか一方が”重要”という意図はない)

朝鮮総連の熱心な活動家として息子たちを北朝鮮に送り、今でも息子家族のために借金までして仕送りするオモニ。北朝鮮がどんな国かを知っている(あくまでも日本の主要メディアから受け取った知識に基づく)からこそ、彼女の心の奥底に横たわる韓国への不信感が理解できない。

その不信感の正体が済州島で明らかになる。済州4・3事件の犠牲者のために建てられたおびただしい数の墓石を前に言葉が出ない。人はここまで残虐になれるのか。政府が自国(韓国)の不幸な歴史に向き合おうとする姿勢に感銘を受ける一方で、そこに至るまでに70年の時間が必要だったことはあまりにも悲しい。

『スープとイデオロギー』というタイトルが表すとおり、手作りスープが重要な意味を持つ。スープの味と思いが受け継がれていく様子は、この作品の中でも最も心を打つシーンのひとつだろう。

済州島の海風が耳に残りつつ映画館をあとにする時、年老いていく親のためにこれから自分は何ができるだろうかと考えさせられた。
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