ルサチマ

いまはむかし 父・ジャワ・幻のフィルムのルサチマのレビュー・感想・評価

4.7
映画編集者・伊勢長之助が戦時中に渡ったジャワで制作したプロパガンダ映画のフィルムが断片的に提示される。それがプロパガンダであるということは批判の眼差しが向けられるもののそこに映る画面と編集の運動(労働)の姿がどれも逞しく、見事な画面であり、そのことを現地の人間の一人が指摘し好意的に日本の映画製作者たちを見つめていたことが興味深い。息子であり優れたドキュメンタリー作家の伊勢真一は父の記憶を辿りながらも、ナレーションを娘?へと託し、父が戦争について語らなかったように自らの言葉で多くを語ることなく、当時のカメラが確かに記録した映像を見ていく行為を繰り返す(そしてそれらのフィルムの保存が日本で行われてないことを指摘する)。
ボロボロのフィルムを透かして見つめる伊勢真一の手のシワと眼差しの透明さが感動的であるのはいうまでもないが、画面外の音へと意識を向ければ日本兵による暴力の支配が語られた後、作中に2度環境音が場面展開のきっかけとして使用される。
1度目は鳥の囀り、2度目は風の音から鳥の囀りへ。
ジャワ島でごく自然に聞こえてくる環境音が歴史において我々日本の支配に対抗する記憶の蓄積として、鳴り響く。
ルサチマ

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