ヒノモト

プリテンダーズのヒノモトのレビュー・感想・評価

プリテンダーズ(2021年製作の映画)
4.8
9月にぴあフィルムフェスティバルで観た作品が一般公開が始まったの機に感想を載せることにしました。

観終わった後の率直な感想は?
プリテンダーズの行動に共感できるかどうかは意見が分かれるが日本映画としては挑戦的な視点で描く現代の承認欲求しか価値基準が見いだせない若い世代へのアンチテーゼが見え隠れするささやかな成長が微笑ましい。です

オープニングからざわざわする気持ちが止まらなかったです。
体育館で高校の入学式らしい風景、号令がかかる。「前へならえ!」
1人だけその指示に従わず、戯けたポーズをとっている。
しかし、それが繰り返されることで、ふざけている訳ではなく拒絶するしか選択肢がない少女が主人公。
彼女はその後不登校になり、友人とともにプリテンダーズを結成し、社会的弱者になり切ることで、その周囲の親切心に潜む、表情の揺れや社会への影響力を動画で発信していく活動を始める。

この辺りで、ラース・フォン・トリアー監督の初期作「イディオッツ」の匂いを強く感じました。
こちらは知的障害者になりきって周囲を欺き、影響された女性とともに共同生活を始める話でしたが、ドキュメンタリータッチで当時としてはかなり異質な作品の印象でしたが、同じ感覚に襲われました。

ただし、今作ではその後、動画の作りこみがエスカレートしていく中で、身元がバレてしまい、事態の顛末を物語が追っていくことになるのですが、この作品の行く末に共感したりできる人は少数派ではないかと思いますし、不快に感じる人もいると思います。

しかし、俯瞰で見た時、現実の残酷さと現実を緩やかに許容していくという主人公のささやかな成長が見て取れるのは、少しだけ救いになっていて、映画としての愛が感じられる終わり方でした。

この作品の良さを伝えるのが難しいのですが、動画をバズらせたら勝ちみたいな承認欲求の塊みたいなリアリティの見せ方と誰かを演じているというフェイクの部分が同居した時の化学反応が終盤に一気に結実して、予定調和では計算できない着地点に至るところが、他の映画に類を見ない見事なところがまずあります。

そして、主演の花梨役の小野花梨さんの憑依的な演技力が圧巻でした。
上映後のトークショーで明かになったのですが、役名からしてそうなのですが、監督自身が小野花梨さんを想定しての当て書きで脚本を書かれていて、さらに準備段階で監督とのすり合わせで脚本が小野花梨さん自身に近づけていったという経緯があったそう。
小野花梨さん自身が実際、号令に従うことができず、不登校になっていたという実体験から映画のオープニングのリアリティが生まれているという事実に驚かされました。

他にも父親との距離の取り方とか、父親役の古舘寛治さんの存在感がすごいのもあるのですが、表現が常にエッジが効いていて、表現の鋭さにドキドキさせられることが多かったのもこの作品が強く響いた要因の1つです。

この作品に本質的な面白さは観ないと伝わりにくいのですが、近年の映画に多い登場人物に共感したり、主人公の行動を応援できるような観やすい物語とは対極にある作りではありますが、ラース・フォン・トリアー監督や、ミヒャエル・ハネケ監督作品などでみられる不快に感じながらも人間の本質を試してくる挑戦的な映画が好きな方には、オススメできる作品です。

最後に少しだけ追記
最高点にしなかったのは手持ちカメラの動きすぎの問題でした。
撮影は今回の東京オリンピックのドキュメンタリーの撮影もされてる方で、ドキュメンタリータッチの空気感が上手く捉えられてる所とさすがに動きすぎて、見えにくいところもあって、相殺されてちょっと残念なところは残りました。
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