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プリテンダーズのシのレビュー・感想・評価

プリテンダーズ(2021年製作の映画)
4.5
そもそも世界というか、人間に生まれるということが残酷で、幸福に生きて死ぬことは虫たちの方が成功している。愛に依存しすぎて、生まれて数ヶ月経っても1人で歩くこともできない、惨めな生き物に進化し、増え続けて、それでも愛だけを見て、もう隣で誰が死んでも気づかない。
見て欲しい。認められたい。褒められたい。私の名前をみんなが覚えていて。山の木の葉の1枚とあたしが同じという事実なんて、見たくない。あたしが今死んでも明日には、渋谷どころか地球は知らん顔、そしてあたしは優しい栄養になる。ここにあたしが居るのに。ここにあたしが居るのに!ここにあたしが居るのに!ここにあたしが居るのに。ここに!あたしが!いるのに!
この感情も全部若さとか言われちゃう世界で若い人間でいる意味なんて無くて、ただ花梨は、それでも本気で若さという嵐の中にいた。それだけは嘘じゃなかった。自己顕示欲、ありふれた眼差しで自分だけは違うと世界を睨んでいる。世界を変えるなんて出来ない、やるとしたら多くの犠牲者が出る、それを理解さえできればなんだってよかったのに、どうしても答えが向こうからやってきてはくれなくて、自分の手で壊し続けるしかなかった、そうしないと自分が壊されて消えて無くなりそうで怖かったのかもしれない。
人助けをしているときの人の嬉しそうな表情に注目してるという点でも、やっぱり花梨がどうしてもすがり付いてしまうのは人の愛情で、最初からただそれだけしかなかったのだと思った。
渋谷のシーン、どれだけ叫んでも誰も立ち止まりもしなくて、それでもあの場所に立ってボロボロ泣いていた、全部の終わりと全部の始まりみたいな花梨の顔が忘れられない。

現実とフィクションの相互性がテーマの話だったけれど、この映画そのものも、別世界への没入というよりはこっちの世界から地続きという感じだった。戸惑い続けてるようなカメラワーク、ワンカットが長いところが映画の雰囲気を決定づけていた。三上愛ちゃんが好きで、三上愛ちゃんのインスタで知って観に行ったけど主演の小野花梨さんもめちゃくちゃ良かった ほぼ本人そのままなんじゃないかというくらい自然で、体当たりの演技に痺れた。
そしてとにかく踊ってばかりの国の曲が良すぎる。何もかもが始まっていく感じ。あれを映画館で聴けただけでも行った意味があった。花梨と風子、これからもちゃんと正式なフィクションの世界で、頑張って欲しいな。芝居、役者、映画を作るということそのものに、改めて敬意を払いたい。
シ