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ウエスト・エンド殺人事件のRenのレビュー・感想・評価

ウエスト・エンド殺人事件(2022年製作の映画)
2.5
邦題は『ウエスト・エンド殺人事件』。観ても観なくてもいい映画。勝手に温故知新の滾る新しいミステリが観られるのかと思ってしまった自分も悪いけど、どの角度から見ても中途半端に感じてしまった。

アガサ・クリスティ全面押し出しなのはやりたいこととしては分かるけど、こういう作り方は近年『ナイブズ・アウト ~』で成功した前例があるので、もっと徹底的にやってほしかった!『ナイブズ ~』は劇中アガサは出てこなかったけどリスペクトは十二分に感じたし、ジャンル横断的スリルと意外性で楽しめたので、色々な点で負けた感が否めない。
あとは『エノーラ・ホームズの事件簿』のように発端のアイデアの突飛さでぶち抜くやり方もあっただろうけど(『エノーラ ~』はそれだけでなくホワイダニットにも意外なネタを持ってきていて凝ってるけど)、今作にはそれも無く。

「ありきたりなフーダニットはもう飽きた」「冒頭は退屈な人物紹介」「回想シーンは想像力の尽きた人間のやることだ」など、古典ミステリのお約束を自ら揶揄していくメタものは、上手くやらないと逃げに見えてしまうのだけど、今作は逃げ。
明確にアンチミステリをやりたかった映画なので、景色が変わるようなどんでん返しも探偵の活躍も無いけど、一方でそれは「いいトリックが思いつきませんでした」という叫びにも聞こえてしまい....。中盤のミスリードがミスリード以上の意味を為していなかったのも消化不良。
古典ミステリをメタ的にツッコみながら古典ミステリの文法に則ってアンチミステリを進めた結果、ミステリになりきれなかったミステリという印象だけが残った。

監督は今作が長編デビュー作らしいのでこれから成熟していくだろうとは思いますが、カメラのパンの感じや演劇的美術は観た全員が言う通りモロにウェス・アンダーソン的で、意図があるのかorプライドの欠如なのかは正直今作だけでは判断がつかなかったので次回作を観たいと思った。ウェス的な左右対称の画づくりが少なかったのは、出来なかったのではなく「そこまでやると単なるコピーになってしまう」という自制心からではないかと推測。
画面を分割する演出などは、カラーを出そうという健気さが垣間見えて愛おしかった。

シアーシャ・ローナンが真面目で真っ直ぐながら空回りしてしまう新人警察官を、サム・ロックウェルが無気力かつ破天荒でありながら新人をたしなめる先輩警察官を演じており、お互いにパブリックイメージから半歩ズレた役をやっていたので、二人のファンは観て損無し。
さすがに今作だけで使い捨てるには魅力を出し切れていない気がしたので、続編ありきですよね....?

【余談】今までシアーシャ・ローナンのことを、演技が達者で出演作も好みのものが多いから好きだと自覚していたのですが、単純にお顔がタイプということに気づきました。可愛い。
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