こぅ

スワンソングのこぅのレビュー・感想・評価

スワンソング(2021年製作の映画)
4.5
「過去にこだわらないで
人は変わっていくのよ」

実在したヘアメイクドレッサー、パトリック・ピッツェンバーガーをモデルにしたトッド・スティーブンス脚本、監督*による、ハートフルな【ロードムービー】。

車ではなく、歩いてというロードムービーは異色だろう。
自身の過去の栄光を辿っていく、、
想起したのはアメリカン・ニューシネマの傑作、【泳ぐひと】ならぬ[歩くひと]だ。


有名なヘアメイクドレッサーだったパット(ウド・キア)は、老人ホームで静かな余生を送っていた。
ある日、弁護士が訪ねて来て、街で一番の金持ちであった、かつてパットの顧客のリタ(リンダ・エヴァンス)が亡くなったという。
リタは「死化粧はパットに頼んでほしい」と遺言書に残していた。
が、リタ へはある複雑な思い(意固地)があった…。


開始から10数分で、情報を簡潔に伝える脚本が先ずパーフェクト!
余り老人ホームでウダウダされても飽きてしまうし、テンポも悪くなるので。

老人ホームを抜け出すとか過去を辿るというプロット自体は決して目新しくはない。
しかし、本作は終始 味わい深さ がある。

自身の故郷、過去を辿り、
初めての人や久しぶりに行き合う人、愛おしい人ばかりでほっこりしたり、笑いを誘い、観る者が決して嫌な気持ちにならない居心地良さも本作の魅力。
恰幅の良い女性陣は、監督の趣味なのか⁈
言動に説得力(貫禄)がある。
監督は、キャスティング能力 にも長けているな〜
セリフで説明しない
(頼らない)演出を施しているのもオトナ。

パットの心情を現すかのような歌詞
の選曲センスがどれもバツグン過ぎる(サントラ出してくれたら欲しいくらいだ)。

https://youtu.be/vKX9f58LaWQ

歌詞は、
https://youtu.be/4MWlKc63HT4

撮影は、
トラッキングショットとロングショットが特徴。

人生で変わらないもの(キャリア、プライド)、
変わるもの(赦し、成長)があるというシンプルなテーマを軸に、
老いても命ある限り、出会いや発見、自分の可能性、希望を最後まで捨てない、というメッセージが響く【人生讃歌】。
それを説教臭く押しつけないのも好感。

人は誰でも 有終の美 を飾りたいものだ。

都合良過ぎでサクサク進むも本作ではご愛嬌。

怪優ウド
の静かな喜怒哀楽演技が光る、晩年の代表作になったのは間違いない‼︎


個人的には
【バッファロー'66】、【ストレイト・ストーリー】、【スモーク】、【ノッキン・オン…】等と同等、10年に1本出るか出ないかというミニシア系の快作‼︎


*注記
トッド監督(56)は、17歳の時にオハイオ州サンダスキーのゲイクラブで実際にパッドが踊っているのを見て衝撃を受け、ついに念願の映画化を実現させた。
監督自身も ゲイ という事で、エイズ、ゲイカップル等、ゲイカルチャーの優しい描き方(LGBTQに理解がある)も納得だ。

監督の次回作にも期待出来そう‼︎
こぅ

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