山本Q

THE FIRST SLAM DUNKの山本Qのネタバレレビュー・内容・結末

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

予告編でいわゆる漫画アニメでは無い雰囲気があったので期待してた。IMAXがいつもいっぱいで、ようやく見れた。
スラムダンクは連載をジャンプで読んでて、コミックは途中まで買ってた気がする。アニメは見て無い。


世代としてあの絵柄がそのまんま動いているだけで感動して熱いものが込み上げてくる。コレはもうどうしようもない。さらにチバユウスケの歌声が重なってわけがわからなくなるまま本編へ。それで打ちのめされて後はされるがまま。
当たり前のようにかなり良い作品だった。当たり前のことを当たり前にやり切っている勇気が凄い。
演出としてはいわゆるベタな展開・見せ方だったのでは無いかと思う。

予告編からただの懐かし漫画のアニメ化では無いと思っていたけど、ここまでちゃんと映画としてクオリティの高いモノになっていたのはびっくり。
まじか。
天才は何をやっても……

強いストーリーがあり登場人物の情感に寄り添いながら上映時間を興奮して過ごし、入り込みすぎて映画が終わるのが辛くなってくる。映画が終わってもうあの世界にいないのを残念に思いながら劇場を出ても興奮はおさまらず、もうあの興奮は味わえないのかと寂しさと共に幸福感と満足感で自然と顔がニコニコしてしまう。
そんな作品を作ったのが映画監督としてキャリアを積んだ人では無く、映画初監督の漫画家というのは映画好きとしては少し悲しい。日本映画の質は決して低くは無いがその中でもかなりの作品だと思う。
スラムダンクは世代なので、評価に思い入れが出っちゃってると思う。

井上先生のテーマとしては、高校バスケと選手たちの魅力を伝える。だと思う。創作的には漫画に対するスタンスと変わらない手触りを感じる。
アニメスタッフとしては、井上先生のやりたい事を実現すると言うのがマスト。モデルや動きにも違和感は感じなかったので相当な金と時間は注ぎ込まれているんじゃなかろうか。

表現としてはまずあの絵が動いているのは本当に驚く。配色のトーンも的確に井上武雄の世界だし、隅々まで先生の画集を見ているよう。
アニメでアニメのキャラクターがちゃんとバスケの試合をしていているように見えるのは凄い。山王戦でコートのどこに誰がいて何をしているのかがわかる時がくるなんて考えたこともなかった。まさかあの試合を本当に(本当じゃないけど)見れるなんて!
キャラクターは全編3DCGだろうけど、人形のような感じが無かったのは凄い。絵柄(モデリングクオリティ?レンダリング方法?)もあるけど構図の作り方とカット構成だと思う。

試合の合間に個々のドラマを差し込み進行する構成は、賛否が分かれそうだが、ハリウッドフォーマットに乗っかった娯楽作品と違いが明確で良いチャレンジだったと思う。試合の流れは切れてしまうが、終わりに向けての興奮にはそれほど邪魔では無かったと思う。

スポーツもので、頭から終わりまで一試合というのは、思い返すと見たことないかも。ありそうなもんだけど、無いだろうか?
こういう当たり前すぎる事をちゃんとやり切るところが井上先生の凄さなんでは無いだろうか。
イラストでの表現とベタに整理されたドラマの相性が良いかもしれない。(ゲームで例えるなら、ドット絵では“伝説の勇者”でバランスが取れてるけど、作り込まれたハイクオリティCGでは物足りないというような。)

バスケの試合が中心になるとは思ったけど、まさか山王戦とは驚いた。作品的には積み重なった最後の部分なので、湘南メンバーの思い入れはマックス。そこから美味しい部分を抽出して見せていく謎の感動。まさにいきなり最終回の感動・テンションで進む。これは初見の人にはどう見えるのか非常に気になる。

展開として最後はびっくりした。疑問はあるが、本人だしいいかとも思う。
いやどうだろう。
いいか?
いいけど、個人的心境は無しかもしれない。漫画では負けたけどしょうがないと思えたし、それでもあの漫画の魅力が無くなることは無かったから、漫画のあの結末は正解だったと思う。
今作は井上先生のスラムダンクを終わらせるためにやったようにも思える。
これだけ客が入れば色気付く人たちはかなりいるだろうから、次回からはこのテイストでバガボンドを最初から劇場公開していって欲しい。
このスラムダンクはもっと見たいような見たく無いような。

アニメであることや、作品が過去に大ヒットした漫画であることなど触れるべき点は多いけど今作の良さはちゃんと真っ当に強いところがあると思う。
バスケそのものに対しても、登場人物に対しても直截的に題材にアプローチして表現として丁寧に力強く積み上げている。物語表現として無駄は無いし雑な部分もない。説明に関しては、知っている身として十分か不十分かはわからないが、説明のためのシーンは無いし、全てを知る必要はないとも思うので問題はないと思う。映画として物語として強度が強く普遍性が高いすごい作品だと思う。


井上先生の才能には恐れ入ったと言う他ない。
何をやっても凄いというのは凡人にはやりきれない。
山本Q

山本Q