サマセット7

THE FIRST SLAM DUNKのサマセット7のレビュー・感想・評価

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)
4.5
原作・監督・脚本は漫画家の井上雄彦。
原作は、井上雄彦の漫画「SLAM DUNK」。

【あらすじ】
少年には、兄がいた・・・。
それから数年後。
無名の湘北高校は、インターハイの2回戦で、大会三連覇中の強豪、山王工業高校と対戦する・・・。

【情報】
2022年公開の日本のアニメーション作品。
原作漫画は、1990年から1996年までの間、週刊少年ジャンプに掲載されていた、伝説的なバスケット漫画である。

「伝説的」とは、何か。

例えば。
2023年時点で公表されている累計発行部数は、全世界で1億7000万部。
ネットで調べると、この数字は、歴代の漫画の中で、第6位、とのこと。
上位には、「ワンピース」、「ゴルゴ13」、「名探偵コナン」、「DRAGON BALL」、「NARUTO」とまさに「伝説」の名前が並ぶ。
スポーツを題材とした漫画の中では、スラムダンクが歴代トップの発行部数となる。

例えば。
原作のテレビアニメシリーズの最高視聴率は21%、平均15%を超えた、という。
なお、テレビアニメ版には、原作終盤のクライマックス、山王戦は収録されていない。

例えば。
日本バスケットボール協会が発表するバスケットボールの競技人口は、原作が連載された1990年から1996年の時期を境に急増した。
プロバスケットボールリーグであるBリーグの創設や、日本人NBAプレーヤーの誕生、日本チームの五輪出場などは、原作の影響なしでは語り得ない。

原作者の井上雄彦は、「バガボンド」「リアル」の作者としても知られる。
その抜きんでた画力は、「SLAM DUNK」の連載中に研ぎ澄まされたものである。
原作コミック単行本を1巻から最後まで読めば、その画力や構成力の驚くべき向上が、見て取れる。
特に連載終盤(単行本25巻から31巻)を占める山王戦では、一つの極みに達している。

今作は、テレビ版でアニメ化されなかった山王戦の映像化を果たすプロジェクトとして企画が開始された。
しかし、原作者の意向に沿わず、長らくアニメ化は実現しなかった。

2014年、東映の提示したパイロット版が原作者の琴線に触れ、ようやく企画が動き出す。
製作は、原作者の全面的な監督の下で進められた。
原作者が、監督、脚本も務めるのは、異例だ。

キャラクターの表現にはCGが用いられ、プロのバスケットボールプレイヤーによる動きをモーションキャプチャする形で、リアルなバスケットボールの動きが表現された。
CGモデルには、原作者自身が大量に手を入れ、原作漫画がそのまま立体感を持って動く表現となっている。

2時間の劇場版とするにあたり、原作の山王戦が主な題材となっているが、視点人物は原作の主人公である桜木花道ではなく、チームメイトである宮城リョータに変更されている。
変更の理由について、井上雄彦は、連載時に宮城リョータの内面を描き切れなかった点や、年齢を経て現在描きたいものを書くため、としているようである。

テレビアニメ版とは、声優が一新されている。
これは、あくまで原作者の中にある「完成形」を目指す趣旨と説明されている。

音楽は作曲家・編曲家の武部聡志と、スリーピースバンド10FEETにより作曲されている。

今作は、国内で興行収入164億円を超える大ヒットとなったほか、アジアを中心に国外でも大ヒットとなった。
日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞受賞。
観客、批評家ともに非常に高い評価を得たが、一部原作原理主義者を中心に、酷評する観客も見られた。

【見どころ】
山王戦=人生。

それが、現在のアニメーション技術&原作者の監督の下描かれる。

それ以上に、何が要る?

【感想】
熱い、時代があった。

1994年。
週刊少年ジャンプの連載陣。
「DRAGON BALL」
「SLAM DUNK」
「幽遊白書」
「ジョジョの奇妙な冒険」
「ドラゴンクエスト・ダイの大冒険」・・・。

週刊少年漫画の、黄金時代、といってもよかろう。

その中でも、ひときわ輝いていた作品。
それが、「SLAM DUNK」であった。

髪を赤く染めた最強の不良高校生、桜木花道は、美少女・晴子の気を引くため、バスケットボール部に入部する。
しかし、ライバルの流川、キャプテンの赤木、ガードの宮城、シューターの三井らと切磋琢磨し、難敵との試合を経て、徐々に桜木は、バスケットボールの魅力に惹かれていく。

キャラクターの魅力。
試合の描写の迫力。
まばゆいばかりの、青春の輝き。

読者は、魅せられ、桜木に同化し、共に青春を駆け抜けた。

そのハイライト。
それが、山王戦であった。
原作者は、決勝で最強の相手と当る、といったありきたりな展開を良しとせず、インターハイ2回戦で、湘北高校を、最強の相手とぶつけた。
そして、全てのキャラクターに光の当る、作品のクライマックスを描き切った。
試合の終了と共に、驚くほどに突然に、連載も終了させた。

作品の中で、多数の名言が生まれた。
「諦めたら、そこで試合終了だよ」
「安西先生、バスケがしたいです」
「俺は今なんだよ。」
「左手は、添えるだけ」
などなど。

今でも、山王戦を読み返すと、胸が熱くなる。
桜木の懸命な姿に。
湘北メンバーの築き上げてきた、絆の深さに。
達人の筆致で描かれる、躍動感あふれる、バスケットボールの試合そのものに。

その山王戦が、現在のアニメーション技術でたっぷり2時間映画化される。
その衝撃!!!!!
驚くほど、リアルに立体的に動き回るが、絵柄は井上雄彦の漫画そのもの!!!!

井上先生の絵を、アニメで表現することを宣言するかのような、タイトル直前の、入場シーン!!!!
一人ひとり描き出される湘北メンバー!!!
対するは、最強山王!!

テンションが上がらないはずがない。

そして、躍動するアニメーション!!!
映画ではなく、バスケの試合を見ている感覚!!!
そのリアルで、精緻な動き!

たしかに、原作のもつ、漫画ならではの生々しい書き込みや、ギャグシーン、心の中のセリフなどは失われている。
しかし、空間と時間の流れの表現が加わることによる、バスケットボールの動きのリアリティは、映像作品ならでは。

井上雄彦が、心の中で思い描いていた試合の完成形を、目にすることのできる感動!!

やがて、試合の中に没入し、かつて原作を読んで感じた感動に、飲みこまれていく。
平静でいられるわけがない。

言いたいことがないわけではない。
視点人物が宮城リョータに変更されているため、終盤の桜木花道の活躍が主役そっちのけに見えかねない点、原作にない映画オリジナルの宮城リョータの過去がかなり重いものである点、試合の進行の途中で、しばしば過去のエピソードが挿入されるため、テンポが殺がれている点など、ノイズになる点も見られる。

また、原作が築き上げた試合に至るキャラクターたちの心情の変化や葛藤などの描写が省略されているため、原作既読者が補完できる部分を、初見の人がどう見るのか、は気になった。

とはいえ、一本の映画という完成形として、2時間の枠内で、湘北メンバーの全員に焦点を当てることや、桜木の道のりを全部振り返ることは難しいだろう。
原作ファンの知らない、宮城リョータの人間的な成長に焦点を当てる、というのは、「新鮮なストーリーを語る」という意味でも、「映画としてテーマを語る」という意味でも、一つの合理的な発想であろう。

最終盤の伝説的な、音の消えた世界。
原作の再現。
何度見ても、心を動かさざるを得ない。

もはや、映画として、冷静な評価などできるわけもなく。

the First SLAM DUNK
最高です!!!!!!!!!!!!!!!!!


【テーマ考】
原作漫画は、バスケットを通じた、青春讃歌であった。

一方、映画としての今作は、宮城リョータの人生と、最強の相手との究極の一戦である山王戦を交差させることにより、新たなテーマを描いている。

宮城リョータと、その家族の抱える、喪失。
宮城リョータの抱く、虚勢の下の、怯え、恐怖。

立ちはだかるは、憧れの舞台、最強の相手。

ぶつけるのは、時に泣き、時に自暴自棄になっても、辞めずに磨いてきた、心、体、技。
そして、高校生活で築いてきた、絆。仲間。

そこには、闘いがあり、友情があり、奮い起こす勇気がある。

試合を通じて、リョータは成長する。
赤いリストバンドの描写と手のひらの描写は示唆的だ。
ついに終盤、リョータがリーダーシップを発揮するシーンは象徴的だ。

一人の人間が、少年から、大人になる。

そのために、必要な全てがある。

それが、バスケットボール。

だからこそ、バスケットボールは素晴らしい。
それこそが、井上雄彦の描きたかった、テーマではないか。

なぜ、宮城リョータが主役に選ばれたか。
彼は、湘北メンバーの中で一番背が低い。
それでも、スピードという武器と意表を着くパスの技を磨いて、舞台に立つ。

そこに、日本で、バスケットボールの映画を作る、意義がある。

誰でも可能なのだ。
工夫をこらし、勇気を出して、仲間と助け合えば。
その先に、見える風景がある。

ラストシーン。
原作にはなかった光景は、なんと、2024年の現実とリンクする。
不可能は、可能となった。
その一翼を、たしかに、「SLAM DUNK」は担っていたのだ。

何度でも言おう。
the First SLAM DUNK
最高です!!!!!!!!!!!!!!!!!

【まとめ】
革命的なアニメーション作品にして、天才・井上雄彦のバスケットボールに対する情熱の詰め込まれた、神作品。

好き度合では、5.0に相当するが、原作への思い入れが強すぎて、映画単体の冷静な評価はできかねる。
暫定的に、この点数にしておきます。

湘北のキャラクターの中で、一番好きなのは副キャプテンの木暮くんだが、今作ではあまり活躍シーンなし。
やはり、今作を見ると、桜木花道のプレーに心が揺さぶられる。
そして、また原作が読みたくなる。