監督は「ヒート」「インサイダー」のマイケル・マン。
主演は「トップガン」「ミッションインポッシブル」のトム・クルーズ。
[あらすじ]
ロサンゼルスにて、将来の夢を描きながらタクシーの運転手をしているマックス(ジェイミー・フォックス)は、銀髪の男ヴィンセント(トム・クルーズ)を客として乗せる。
ヴィンセントは破格の高額で、マックスに、一晩で5箇所を回る足になってほしいと持ちかける。
しかし、ヴィンセントは実は殺し屋で、マックスは彼の「巻き添え」で暗殺の標的の元に連れ回される羽目になり…。
[情報]
2004年のアメリカ映画。
トム・クルーズが、珍しく悪役を演じた作品として知られる。
彼は容姿端麗なグッド・ガイ役を中心にキャリアをスタートさせ、還暦を超えた今では、身体をはったアクションスターとして知られる。
しかし、俳優としての特徴は、イケメン,アクションに止まらない。
エキセントリックで狂気的な演技の幅も、彼の持ち味である。
今作は、「ヒート」「インサイダー」で渋い「男の世界」を描いたマイケル・マン監督が、トム・クルーズのエキセントリックな持ち味を見事に引き出したサスペンス映画である。
今作はスチュアート・ビーティー(パイレーツオブカリビアンなどの脚本家)のアイデア(「タクシーに乗せた客が連続殺人鬼だったら…」)ありきで企画がスタート。
監督や主役は、当初ヤヌス・カミンスキーやラッセル・クロウなどが候補となったが、最終的にマイケル・マン、トム・クルーズ、ジェイミー・フォックスの座組に落ち着いた。
映画的リアルに拘るマイケル・マンは、作品で現れる以上の作り込みを行い、キャラクターに裏設定を用意した他、役者たちに演技プランを要求した。
その結果、トム・クルーズは実弾射撃の訓練を受け、ジェイミー・フォックスは自動車の運転技術を学び、その他マーク・ラファロらのキャストも役に応じた訓練を受けさせられたという。
タイトルは「巻き添え」の意味。
今作は6500万ドルの予算で作られ、世界興収2億2000万ドルと及第点のヒットとなった。
批評家、一般層ともに、ジャンル映画としては比較的高い評価を得た。
私が見たところ、一部の熱いファンから特に評価が高い作品である。
批評家の芝山幹郎は連載「スターは楽し」の中で今作をトム・クルーズの代表作DVD3本のうちの一作に挙げている。
ラジオ番組ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフルの企画「トムクルーズ総選挙」(2017年7月10日)では、視聴者投票にて、今作がトム・クルーズ作品の一位に選ばれている。
[見どころ]
悪役トム・クルーズのエキセントリックな魅力全開!!!!!
マイケル・マン監督は、L.A.の夜景を幻想的に活写!!!!
現状に甘んじて一歩を踏み出せないジェイミー・フォックス演じるマックスを、次々と災難が襲う!!!
殺し屋が伝える今作のテーマ「人生は短い」が、ブッ刺さる!!!
ダラダラ現状に甘んじている者の魂を打つ、現代の神話!!!
[感想]
名作!!!!
作品として粗はある。
「サスペンス」「アクション」のジャンル的枠組みでは、今作より優れた作品など、無数にあるだろう。
あまり上手くない描写やツッコミどころも、たくさんある。
しかし!!!
今作は幾つかの突き抜けた魅力を有する作品であり、誰が何と言おうと、私にとっての名作なのである。
まず、今作はトム・クルーズの狂気的な側面に光を当てた作品である!!!
冒頭!!
銀髪、スーツ、サングラスで姿勢良く歩く殺し屋ヴィンセント!!!
曰くありげなジェイソン・ステイサム(カメオ)と交錯!!
そして,バッグを取り替える殺し屋ムーブ!!
テンションが上がる!!!
タクシーに乗りサングラスを外した両目に煌めく狂気!!!
そこに、どこか甘さを残したいつものトムは存在しない!!!
そして!!
物も言わずに弾丸を喰らわす、殺しの腕前!!!
御託を並べる前に、手を動かす!!
額に一発、胸に一発!
これぞ、プロの鉄則!!!
最初から最後まで、ヴィンセントの挙動から目が離せない!!
多少シナリオが無茶だろうが、ご都合主義だろうが、駅や高速道路が不自然に無人だろうが、そんなものはトムの圧倒的な狂気の魅力の前には、気にならないのである。
今作は、マイケル・マン作品特有の、味のある夜景が頻出する作品である。
タクシーが夜のロサンゼルスを疾走する。
その、幻想的カット!!
音楽使い!!!
突然現れるコヨーテ!!!
多少テンポを損なっている感じがしないでもないが、そんな些事は、マン監督の夜景の前には、気にならないのである。
そして!!!
今作の最大の特徴は、その明確なテーマ性にある。
12年もタクシー運転手を続け、夢を語りつつ、何も実行に移してこなかったマックス。
彼に殺し屋ヴィンセントは語る。
「大抵の人間は、10年後も同じ仕事、同じ暮らし、その方が安全だから同じことの繰り返し、だが、10分後を誰が知っている?」
「しゃべらず、直接行動に出る、それが男だ」
ヴィンセントに脅され、殺人夜行に付き合わされるマックスが、殺し屋との不本意な交流を経て、自分の人生の在り方を見つめ直していく。
クライマックスは、テーマと密接に絡み、疾走する!!!
ラストシーン。余りにも潔い終わり。
狙ったであろう余韻があるかは怪しいが、そんなことは、心を震わせるテーマ性の前では、全く気にならないのである。
[テーマ考]
今作は、人生は短く、やりたいことは今やらないと、「できる時」など永遠に訪れない、ということを警告する作品である。
リムジン送迎の会社を設立する夢を持ちながら、何も実行に移さず安穏としたヌルい現状に甘んじるマックスと、「今」を強烈に生きる殺し屋ヴィンセントの対比!!!
ヴィンセントの殺し屋の流儀や、マックスの車内の写真、母親との関係性、ジャズミュージシャンの挿し話など、いずれもこのテーマに沿って理解できる。
マックスは、半ば強制的ながら、「覚悟」を決めていく。
終盤の彼の行動は、いずれもヴィンセントの「教え」を反映したものであり、象徴的だ。
今作は、テーマに沿った名言の宝庫であり、ある種の教訓的な譬え話と言える。
メッセージは明確だ。
人生は短い。
ぐだぐだ言い訳をこねていないで、今、やれ!!!
マックスは、決して例外的な怠け者ではなく、ごく普通の働き者にすぎない。
だからこそ、今作の射程は広く、観客の胸にグサグサ刺さる。
一部の熱狂的評価の所以ではないか、と思う。
はい、私の胸にもしっかり刺さりました。
よーし、明日から頑張ろう!(わかってない)
[まとめ]
トム・クルーズのエキセントリックな魅力が火を吹いた、教訓的なメッセージを含む、マイケル・マン流殺し屋映画の名作。
今作は妙に脇役が豪華だったりする。
ちょい役のステイサム、刑事役のマーク・ラファロ(ハルク)、マックスといい雰囲気になる乗客役にジェイダ・ピンケット・スミス(マトリックスシリーズのナイオビ)、ギャング役にハビエル・バルデム(ノーカントリーの殺し屋)などなど。
印象に残るシーンは多いが、マックスの母親の病室のシーンは、妙に記憶に残った。
トム・クルーズの胡散臭い微笑みが、最大限に活かされている。最高!!