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パリ、テキサス 2K レストア版のmmmのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

ヴィム・ヴェンダース レトロスペクティブにて

テキサスを放浪していた男の妻子との再会と別れを描いたロード・ムービー

4年前に失踪したとラヴィスはテキサスの砂漠で行き倒れたところを保護される。
持ち物を手掛かりに連絡を受けた弟のウォルトは、隙あらば逃げようとする兄を辛抱強くなだめながらロサンゼルスの自宅に連れ帰るのだった。

その家には、ウォルトの妻のアンとともに、失踪後に引き取ったトラヴィスの息子ハンターが暮らしているが、4年の歳月を埋めるべく、父子のぎこちない再会から徐々に言葉を交わし始める。

時を同じくして、アンからトラヴィスの妻・アンからハンター宛てに送金があり、その送金元がヒューストンであることを知らされる。

居ても立っても居られなくなったとラヴィスは、ハンターとともにヒューストンに向かうのだった。

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ロードムービーなので、淡々とした作品ではありますが、寡黙な男・トラヴィスの心情が
少しずつ分かっていくことに、なんとも複雑な気持ちになる作品でした。


単純に言ってしまえば、トラヴィスもアンも自分勝手に過ぎず、そこには嫌悪を覚える人が多いだろうなぁ。

もちろん、そう思ったし、不器用で通用するのは高倉健だけじゃないか!と思いつつ、
そこはちょっと譲歩して見ていると近しいほどに素直になれない、なんともいえないもどかしさを感じました。

弟夫婦の優しさや、ハンターの順応性に大きく助けられるところがあるけど
多分、素直になれるならとっくになれていてるだろうし、踏み込むことで壊れてしまうのではないかという不安は
(直近でいくと、ドライブ・マイ・カーの福家を思い出します)
言いかえれば、それも愛の大きさなのかもしれないですね。


最初は逃げられてしまったお迎えも、お手伝いさんの相談しながらお洒落をして、通りを挟んだ息子にも
その父の努力というか思いが伝わって、そうやって少しずつ距離が縮まっていくのをみていて、ぐっときてしまった。

ヒューストンに誘った時に二つ返事で行くって言われた時は嬉しかっただろうなぁ。


通りを挟んだ父子のシーンは是枝監督の「そして父になる」を
父子二人旅は、クレイマークレイマーのテッドとビリーを思い出しました。
息子の方が、ちょい大人な瞬間が面白い。


無事、アンを見つけ出すことができたのですが、再会はマジックミラー越し。
それこそ逃げ出してしまいたい思いもあったと思うけど、この状況だから伝えられたのかな。

アンも途中から、向こう側にいるのがトラヴィスと気づき、当時の思いを話し出すも
それ以上距離を縮めることができないままの2人のカットは、心がぎゅっと締め付けられるようでした。

1枚の薄い壁を超えることができない夫婦と、直接抱きしめ再会を果たす母子
それを外から見守る男

切ない距離感だな。

やっぱり、「もっと素直になってー!!」と心の奥では叫んでしまいそうでしたが、
どうにもできないこともあるんですね。
人と人の距離って難しいわ。

そして、弟夫婦がとても心配…

真っ青な空とか、なんといってもアンのボブスタイルにビビットな色のニット
時に差し込まれる鮮やかな色がとても印象的。
(あぁ、生きるってドライブみたいな感じなのかも…)

静かに心情を辿る時間。なんとも贅沢でした。
そして、旧作をスクリーンで観るなんて貴重な経験。
他の作品も行けるといいな。


主演のハリー・ディーン・スタントン(2017年没)は、こちらより先に遺作となる「ラッキー」を観ていてたのですが、
このラッキーさんが、またちょっと偏屈な独り身でして…
思わず、トラヴィスのその後なのかと考えたり。
こちらは人生の終焉や死生観についての話なんですが、とても味のある作品なので気になった方には見ていただきたいです!
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