マインド亀

アステロイド・シティのマインド亀のレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
4.5
最高のウェス味!そして人は喪失感とどう向き合っていくか。

●私、この映画鑑賞にあたって一つミスをしておりまして…
実はこの映画の鑑賞中、ずっと「あれー?なんかビル・マーレイ、ゴタゴタあった割には出演してるなあー?やっぱりウェス・アンダーソン常連だからなんだかんだ言って出演出来るのかな〜」などと思ってたら、トム・ハンクスでした…
いや、鑑賞中何度も「ビル?違うか?あ、でもやっぱりビルか…」などとモヤモヤしてたんですけど…。

映画ニュース 2016/10/30 12:00

トム・ハンクスとビル・マーレイが似すぎとネット騒然

https://moviewalker.jp/news/article/91092/

このような話は何年も前から言われてたみたいなんですが、ビジュアルにこだわるウェスアンダーソン、どんだけビル・マーレイの顔が好きやねん!って感じです。
トム・ハンクスもウェス・アンダーソン作品初参加なのに、ビル・マーレイのクローン扱いでええんかいな…って感じですが…

●と、そんなビジュアルに徹底してこだわる唯一無二の作風のウェス・アンダーソン作品ですが、ずっと彼の作品を追いかけていると、もうグツグツとウェス・アンダーソン味を煮詰めて煮詰めて純度を増すことに快感すら感じてしまいます。この持ち味が合わないという人もたくさんいるとは思いますが、私は完全にクセになってますね。前作の『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』がその頂点だと思っていたのですが、本作は色温度を変えてまだまだビジュアル的に突き詰めています。
次から次へとウェス・アンダーソン構図のシーンが現れ、パンしながら画面が動くたびに「次はどんな構図なんだ?次はどうやってカメラが動くんだ?」とウズウズしてくるのです。完全にビョーキ。

●とまあ、この毎作毎作のビジュアルにヤラれているわけですが、それだけでここまでハマるわけではありません。パンフレットで町山さんが書いてるように、ウェス・アンダーソン作品は必ず、誰かを失ったことによる喪失感と、それに向き合うことが一つのテーマとなっており、絶対にどこかでホロリとさせられてしまうんですね。
それも必ず無表情で、早口のセリフ回しで。
登場人物は決してエモーショナルに感情をむき出しにしないから、どういう感情かは観客にわからない。でもそれってリアルな日常で割とあることだと思うんですよね。決して人に悟られないように、自分を守るかのように無表情で話すことって普通にあるし、フイに感情が高まって、うっかり漏れ出た感情に、見てる方がつられて泣いてしまったり…
まさにそういう映画なんですよね。
私はジェイソン・シュワルツマンの三人娘が可愛くて可愛くて、その三人が母親の位牌に魔法をかけ、三世代の男がちょっとうるっと来たシーンで、観てるこっちがウルウルしてしまいました…
そして亡くなったジェイソン・シュワルツマンの妻役を演じるマーゴット・ロビー(めちゃくちゃややこしい!)の、舞台で演じるはずだったセリフを聞いて号泣。「私、カメラに映るかしら」こういうセリフがウマすぎる!

●先程のマーゴット・ロビーのくだりで、なんで上記のようにややこしいことを言ってるかというと、入れ子構造が激しすぎてめちゃくちゃ複雑な作りとなってるんですね。要はこの『アステロイド・シティ』は劇中劇でして、更にその『アステロイド・シティ』で演じる役者やスタッフの舞台裏、そしてそれまたそれをテレビでドキュメントとして放映するTVスペシャル、というような3重構造!また、劇中劇の中のスカーレット・ヨハンソンはマリリン・モンローをモデルにした女優役で、彼女が劇中劇で演技の練習をするシーンがあるからそれがまたややこしい。なので事前にしっかりとその構造を頭に入れておいたほうがいいかもしれません。それさえ分かれば大丈夫!
スカーレット・ヨハンソンがシャワー室でバスタオルを落とすシーンで、「代役?」って言われるのですが、それも劇中劇だから。スカヨハの裸が見られると思った人、残念!レア・セドゥなら脱いだな(笑)

●劇中劇『アステロイド・シティ』そのものは、このパンデミックで外出を禁じられていた世界そのものを反映した内容にもなってますが、基本は50年代の宇宙人SF映画を模したものだと思ってもらって良いです。ちゃんと宇宙人も出てきます。そしてそれまたジェフ・ゴールドブラムって言われて誰が気づくねん…!(笑)

●ウェス・アンダーソンファンは当然ですが、彼の作品を観たことない人も、これだけの豪華キャストの共演と、何より画面いっぱいに広がるステキすぎる構図のだだっ広い画面を楽しむには映画館での鑑賞をおすすめします!是非観てください!
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