Ren

アステロイド・シティのRenのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
3.0
今作を鑑賞する多くの人はウェス・アンダーソンのあの世界観に浸るために来ているのだと思うし、そのニーズは当然のように100%満たしてくれる。ただし自分としては、それ以外のシズル感を増してくれないと興味の持続が難しい。別段ウェスファンではない人間の一意見としての備忘録。

15年前くらいから彼の作品の良さというのはそこまで変わっていなくて、個性の呪縛に囚われてしまっているのではとすら邪推してしまう。『グランド・ブダペスト・ホテル』で一旦ピークを迎えた後、その作家性を飽和量以上突っ込むことで進化(?)していて、なかなか横に広がっていかない(『フレンチ・ディスパッチ ~』の雑誌の映像化などは面白い試みだったと思うけど、ただハマれなかった)。
より好きになっていく人も、もういいやと離れる人も居て然るべき作家だとは思う。

入れ子構造が特徴的(予告でこの部分は隠されているけど、今更ネタバレでもないと思うので言ってしまう)だけど、今どこに居るのかはモノクロ/カラーの差別化とアスペクト比で明確に分かるので、世間で言われているほど難解すぎることはないと感じた。『グランド・ブダペスト・ホテル』でもやっていたアプローチだしね。
それはいいのだけど、各レイヤーを飛び越える楽しさがあまり無い、どの世界にも愛着を持てるキャラクターを見つけられないままぬるぬると進んでしまうなどの点で自分の中でグルーヴしていかなかった。

そして何より、全編通してとても窮屈そうだった。広大な地平線を映しているのに、どこへも行けない謎の閉塞感がある。なんでこんなことに?と思ったが、観た後の今、自分の中で超勝手な解がある。

登場人物を箱庭(的な世界観)に閉じ込め続けてきたウェス・アンダーソンは、今作でキャラクターをクレーターに閉じ込め町に閉じ込め舞台に閉じ込めテレビに閉じ込めた。セットに/カメラに、そして創作の世界に「閉じ込める」のが彼の作家性の所以だとして、それを幾層にも体現しているのが今作だ。
今作の人物たちは例外無く創作の呪縛の中に生きている。その中で自身の喪失やアイデンティティや出会いと向き合うドラマが同時並行で無数に進む。

ウェス自身も、もしかしたら「ウェスらしさ」という呪縛と共に生きているのではないか。そのある種の苦悩みたいなものを、今作の俳優たちに/舞台制作者たちに/テレビ制作者たちに託したのではないか。

彼らはそれでも創作と共に生きていく。悩みながらも、物語を作る者として生きていく。これはウェス自身の「それでも自分は自分の映画(物語)を作ることで生きていくのだ」とする決意の作品なのではないか。何捻りも加えた素直じゃない自叙伝なのか?
今作で最も印象的な宇宙人のシーン(というかそこくらいしか単発のシズルは無い!)。それ自体が面白くもありつつ、こういうストレートに胡散臭くて超嘘なものも描いちゃうよ〜という茶目っ気という名の照れ隠しなのでは、と今なら思ってしまう。

好き勝手解釈してしまったけど、結論自分はやっぱり『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『ムーンライズ・キングダム』『グランド・ブダペスト・ホテル』が好きで、その他はそこまで惹かれていないなと再確認することになった。ウェス作品が好きなら観に行きましょう。

その他、
○ メタパートのエドワード・ノートン、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー3人が同画角に入っただけで胃がもたれる感じ(いい意味でね)。
○ キャラクターとして一番好きなの、実はマヤ・ホークの教師かもしれない。
Ren

Ren