TakeruAkahoshi

アステロイド・シティのTakeruAkahoshiのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
4.0
ウェス・アンダーソンの今作は映画なのに演劇的な劇中劇(メタ構造)が際立っていい感じ。ワイルダーの「わが町」とピランデッロの「作者を探す6人の登場人物」を思い出した映画でした。最も象徴的なのは宇宙人の登場ではなくて、劇作家が「登場人物の皆が、人生の心地よい眠りに誘われる」と宣言し、「でも書けない」という場面。俳優たちは、次々と「起きたいなら眠れ」(“You can’t wake up if you don’t fall asleep”)という台詞を連呼していく。これは、能動的に何かをする、仕掛けていくのではなく、どちらかといえば受動的にそこにいて何か起きるのを待つ感覚に近いのではないか。俳優は何かをする前に、そこにいることで成り立つ職業でもある。起きたいなら=何か演技をするなら、眠れ=余計(演技)なことをせずそこにいろ、本編では隔離され何をすることもできずにただアステロイドシティで過ごし最終的には宇宙人が再来して隕石を放りだして混乱を起こすという投げやりな展開にされ、嫌気が差したジェイソン・シュワルツマンが舞台を投げ出しエイドリアン・ブロディに「何もしないでそこにいろ」と説得を受けるが納得がいかない。本編でジェイソン・シュワルツマン演じる戦場カメラマンは奥さんを亡くしているが、人生に於いて何かを失う、喪失感を無理に忘れてなくすのでない、ありのままでありながら、次に登場人物(私たちが)何をしていくのか、何をするべきかを待つ状態そのものが、この群像劇ではありありと描かれているような気がする。サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」で、ゴドーは来ないように、私たちは常に何か変化を待っている。私たちはそうそう変われない。その人自身の価値観や存在は誰かを失ったり、宇宙人襲来や天災のような非日常的なことが起きて初めて気付かされるのだと思える。