りっく

アステロイド・シティのりっくのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
3.4
何重もの入れ子構造になっている複雑難儀な一作だが、いつものウェス・アンダーソン作品よりも俳優の演技の自由度は高い印象を受ける。正面や真横からの絵画的なキメ画は相変わらず炸裂するものの、駒のように俳優を画面に配置することに固執過ぎていない。

そこで浮かび上がるのは、相変わらず仏頂面で何を考えているかわからない俳優たちの、そこから滲み出る悲哀や隠された心の傷やトラウマだ。観客が物語に没頭しようとすると入れ子構造の外側に引き戻されるからこそ、内側と外側の断絶、自分と世界との距離のようなものが、宇宙人が唐突に登場することも相まって余計に透けて見えてくる。

また仏頂面であることをウェス・アンダーソンは意図して演出していると考えると、例えば自分の実人生で似た経験や感情を探してキャラクターを作り演じるという演技メソッドへのアンチテーゼとして機能しているようにも思えてくるから面白い。

個人的にはウェス・アンダーソン映画は冒険活劇のようなシンプルな物語が好みではあるが、俳優とどう向き合い演出するかを意識しているように感じられた点で、映画作家としてのネクストステージへの冒険や挑戦が感じられる一作。
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