1955年、子供達に母親の死を伝えられないでいるスタンリーは、長男が受賞した少年科学賞の授賞式のために砂漠の街アステロイド・シティを訪れる。そこで同じく娘が科学賞を受賞したシングルマザーで映画スターのミッジと出会い親しくなるスタンリー。
そして始まった授賞式で、UFOに乗った宇宙人が現れ街の名物である隕石を持ち去ってしまい......。
『グランドブダペストホテル』や『ムーンライズキングダム』は分かりやすくて好きだったんですが、これは難しかったな......。
ウェス・アンダーソンの作品って、実はエモいけどエモエモしく描かないようなところがある気がしますが、本作はそれが極まっていてなんとなくやろうとしてることは分かるものの実感としてエモさが感じられなくて面白かったとは言い難いという感想になってしまいました(その点ムーンライズキングダムはエモさがストレートに出てるから好きなのかもしれん)。
まぁあとアメリカ史への造詣もないので余計に難しかった......。
本作の特徴といえばやはり本筋の部分が舞台劇であって、枠部分がその舞台を作る様子を収めたドキュメンタリー番組になっているという奇抜な構成ですよね。
本筋のアステロイドシティの物語は舞台劇という設定のためかいつも以上に作り物めいたカラフルで可愛いセットで展開し、枠部分は当時のテレビ番組という設定のためかモノクロで映される極端な視覚的対比が面白かった。
枠部分に出てくる演出家とスタンリーを演じる俳優の同性のラブストーリーが、男女のラブストーリーに置き換えられて劇中劇として本筋部分になってる......みたいな感じだと思うんですが、どうしても枠部分がそんなに多くは語られない(しかも番組の司会者が語るという客観的な作りになってる)からここの演出かと俳優のお話にあまり感情移入できず、いきおいそれを投影した劇中劇にものめり込めずといった感じであまりハマれなかったです。極度に抽象化された虚構の中に真実の愛が潜まされているみたいな構成は、頭で考えたら凄いと思うんだけど、感覚的にはあんまピンと来ないっつーか。
また、1955年が舞台で宇宙や核実験がトピックとしてあるのでアメリカとソ連の宇宙開発競争をテーマにしているらしいことは分かるんだけど、その辺にあんま詳しくないせいで面白がり方がわからなかったのもあります......。
ただとはいえレトロでおしゃれなビジュアル、ヘンテコな展開や会話など瞬間瞬間の面白さはたくさんありました。
宇宙人が出てくるシーンの(いい意味での)チープさには思わず「嘘でしょ......」と呟いてしまいました。開会式みたいなのでなぜか舞台のマイクでちょっと喋ってから前に出てきて別のマイクで喋り出したり横に移動するところもよく分からなくて笑った。主人公の3人の娘たちもほとんど出番はないんだけど出てくると可愛いし面白くて良かったです。
あと有名人の名前を1人ずつ増やしてくゲームが面白かったけど教養がなくてほとんど分からなかったしそこで名前の上がった日本人の北条時行すら誰だそれ?ってなったのが恥ずかしい......。しかし『犬ヶ島』に「メガ崎市」という素晴らしい日本語固有名詞が出てくることを思うと本作でいきなり「北条時行」が飛び出てくるのも納得してしまいます。
あとマーゴット・ロビーが写真だけの出演だったら贅沢すぎる......と思ってたら終盤で印象的な場面に出てきたところが良かったです。