ティンク

イノセンツのティンクのレビュー・感想・評価

イノセンツ(2021年製作の映画)
3.2
『大友克洋の漫画をご存じか? 特に「童夢」』

漫画家大友克洋が世に出てきたとき、かの手塚治虫が焦って、本人に対して「僕もね、あなたのような絵は描けるんですよ」と言ってしまったくらいその衝撃は大きかったようです。
その焦りは間違ってなく、今や世界に影響を与えるアーティストになっていますね。もちろん、漫画「AKIRA」のアニメ映画化がすそ野を広げた最大要因だとは思いますが。

そんな「AKIRA」より前、80年代初頭に連載されたのが『童夢』で、超能力を持った「子供」が団地を舞台にバトルを繰り広げる内容は衝撃的でした。派手な空中アクションや今につながる超能力の表現(壁がズンッと丸く凹む)もあるのですが、何より、一見何も起きていないように見える場面の裏で、壮絶な超能力バトルが繰り広げられているというシーンが画期的でした。

さて、本作。超能力を持った子供たちが主人公でバトルを繰り広げる内容、舞台は団地です。これはもう、ね。
(さすがノルウェー、団地も森の中にあるんですね)

主人公たちの演技が見事ですし、子供たちは純粋無垢な存在ではないとストレートに描いているのも素晴らしいです。(だいたい高いところに行ったら唾たらしますよね。わたしも、虫眼鏡で蟻を焼いていたことを思い出してしまいました)
一映画作品としては、不穏な絵作りは成功しているものの、今一つ編集のキレがないし、音楽や音響の演出も同じようなものの繰り返しで単調だし、そもそも脚本も、もっともっと練って削ぎ落せたんじゃないかって印象でした。(個人的に猫のくだりは、もっと間接的にして欲しかった。しかもその後の展開に生きてないし)

そしてラストは、大友克洋『童夢』へのオマージュというより、ほぼ実写映画化。
40年以上前の日本のひとつの漫画作品が、時を超え地球の裏側の今のアーティストにまで影響を与える時代になっていることを、しみじみ実感した次第です。
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