Omizu

海炭市叙景のOmizuのレビュー・感想・評価

海炭市叙景(2010年製作の映画)
3.7
【2010年キネマ旬報日本映画ベストテン 第9位】
不遇の作家、佐藤泰志の短編小説集を映画化した作品。監督は『私の男』熊切和壽。同じく佐藤泰志原作による『そこのみにて光輝く』(2014年)、『オーバー・フェンス』(2016年)とともに「函館3部作」と位置づけられる。

北海道出身としてはこれは避けられない一作。熊切監督の叙情的な演出が光る秀作。「函館3部作」の他の作品はどちらも好き。本作もとてもいいと思った。

かなり地味で重たい。しかしこれが現実である。地方都市における、特に函館(ここでは架空の街という設定だが)のような位置づけの街における貧困や現実の辛さは想像に難くない。

群像劇として違和感なくみせる熊切監督の手腕が素晴らしい。地味で重たく、しかもこの長さ。とりとめのない作品になってもおかしくなかったが、複合的な要素を見事にまとめ上げている。

谷村美月をはじめとする役者陣も好演している。その場にあった熱量でそれぞれが果たすべき役割を担っていたと思う。

函館を舞台にした海炭市を叙情的に美しく捉えており、これぞ日本映画というバランスになっていた。派手さはないが、小説の映像化として完璧な作品だと思う。行間を読む深さがある良作。
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