アー君

パラレル・マザーズのアー君のレビュー・感想・評価

パラレル・マザーズ(2021年製作の映画)
4.0
封切り日は療養中であったため、見る機会ができずに忘れていたが、思い出してなんとか映画館には滑り込みセーフという感じであった。

鑑賞後の素直な感想としては単純に良かったが分かりにくい。世界史の知識がないと面白味が半減するのではないかと思う。

表面的には病院で偶然知り合った2人のシングルマザー(ジャニスとアナ)が赤ちゃんの取り違えによる母としての苦悩を描いているが、その背景にある「スペイン内戦」による戦後の傷がいまだにある事を監督のメッセージとして私たちに伝えたかったのだろう。

スペイン内戦は1930年代に共和国政府に対して軍部・右派勢力(フランシス・フランコ)がクーデーターを起こした国内の戦争であり、勝利した軍部側が独裁政治を築き上げた。
またこれは隣国周辺やソ連の思惑がある代理戦争でもあり、第二次世界大戦へ向かう引き金となってしまう。
アルモドバルはスペイン内戦を経験した年齢ではないので両親からの影響ではないかと思う。
(あまり歴史には詳しくないので鵜呑みにはしないで下さい。)

ジャニスはどうしてDNA検査後も実の子どもでない事が分かりながらも、アナにすぐに言えなかったのかというところがポイントになるが、考察すれば実子を亡くした事実を知った女(母親)としての業かもしれない。あの戦争では「血の繋がり」のある親子同士が思想の違いで殺し合うような事もあり、その史実とジャニスの葛藤を裏返しの暗喩(メタファー)としてみれば監督のメッセージとして捉えることができる。そしてこれはジャニスとアンだけではない、すべての母親たち(マザーズ)が相容れることができない女同士の対立構造(平行線)でもある。

私はなぜジャニスとアナは一時的ではあるが愛し合ったのかは疑問に感じたのだが、これは2人のルーツからみればジャニス(人民戦線側のリベラル)とアナ(フランコ側の保守)との関係による「和解」を意味しているのではないかと解釈をしている。アナが保守側なのかは少し無理があるかもしれないが、母親が売れない役者でありながら裕福層のようなことを言っていたので、祖父母は軍部側のパトロンだったのではないかと思う。

アルモドバルも述べているが、勝利したフランコ体制が占領した地域の市民を虐殺した史実に対して決して恨みのような意図でこの映画を製作をしてはいないというのはあながち間違ってはおらず客観的に撮っている。

気になったのはジャニスはカメラマンという職業が似合ってなかった。ペネロペがモデル並みに美人すぎたのと機材の持ち方にぎこちなさがあった。(逆にジャニス役はロッシ・デ・パルマにキャスティングした方が面白かったかな)
また赤ちゃんを取り違えた原因がただのミスなのか、何らかの理屈が欲しく物語における偶然性に無理を感じた。そしてこのようなストーリーは月並みでありがちである。
留学生もポジション的に意味不明だった。クビにしたことでアナを迎え入れる展開は理解できるが、留学生がストーリーとして重要な何かの伏線として動いてほしかったので残念であった。

戦没者に対して行われた作業員の「ダイ・イン」による行為は深い余韻を残した。

最終評価になるが最近のアルモドバルの作品は70代で老境に差し掛かり、死を意識しているのか自身の半生を振り返ったり、奇抜なユーモアや艶やかさを抑えて地味ではあるが「パラレル・マザーズ」は過去の史実と現在における母親たちの人間模様をドラマチックに描いているので個人的に評価は高い。しかし前にも述べたが歴史の背景が分からないと一般的に評価は下がるのでないかと思う。
もし可能であれば「スペイン内戦」を調べた上で見直すとこの映画の素晴らしさが分かるのではないかと思う。

[シネマカリテ 10:20〜]
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