NEMO

The Hand of GodのNEMOのレビュー・感想・評価

The Hand of God(2021年製作の映画)
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マラドーナの登場を表すのに音楽は必要なく、スタジアムの歓声こそが彼のテーマになりうる。というと少しカッコ良すぎか。

作品を象徴するNadia SirotaのEtude3という曲(とても即興的な構造をしているが、恐らくスコアがある)からはまるでDavid Langの幼年期のような趣を感じられ、彼には珍しく少年を主人公に選んだからこその選曲なのだろう。
カプアーノからの叱咤のシーンに流れるPrayer (by Sol gabbeta) も素晴らしい。観客に安易な未来への、ローマへの希望を抱かせない。壊れるなよ、彼の言葉と共に、苦難と解放に満たされた人生のゆくえを想像させる。

フェリーニを引き合いに出すのも今更なんだろうが、作品を重ねるにつれてイタリア的キリスト性の深まりと、おだやかな決別を感じる。それは巨女への憧憬であり、神性と俗な欲望との交わる所を描く、太陽のごとき力強い一筆書きの系譜なのだろう。
宙吊りの男、ハングドマンをそのままの意味で捉えるのは危険だろうか?忍耐と自暴自棄の狭間にこそ少年は生を見出す。フィルムに収められた煌めくナポリの海は、いまだかつての暖かみを失っていないようにみえた。
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