SANKOU

サウダーヂ デジタルリマスター版のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

4.6

このレビューはネタバレを含みます

今から10年前の映画だが、果たして今の日本は当時から進歩したのだろうか。
派遣労働者や外国人労働者の待遇は今も全く変わっていない。
この映画で描かれるのは底辺の生活を強いられている人々の姿だ。
しかし社会の土台を支えているのは彼らなのだ。
安く雇える外国人労働者が増えたために、日本人の働き口がなくなっていく。
しかし劣悪な労働条件によって外国人労働者もまともな生活を送ることが困難だ。
一体どこに金は流れてしまっているのか。
この映画の中でも数多くの外国人労働者が日本に見切りをつけて自国へと帰っていくが、こんな労働環境を改善出来ないようでは本当にこの国は駄目になってしまうと思った。
この作品から発せられる怒りのメッセージは、しっかりと観る者の心を震わせることだと思う。
群像劇で主軸となるストーリーはないのだが、 シーンのひとつひとつが今まさにリアルタイムで起こっているドラマのようで最後まで惹き付けられた。
舞台は山梨の甲府なのだが、登場するのはタイ人、フィリピン人、ブラジル人の出稼ぎ労働者たちで、何故か日本人の方がマイノリティーに感じてしまう。
憎しみをぶつける相手はもっと上の方にいるはずなのに、同じ次元で足を引っ張り合う彼らの姿が哀しい。
結局この国で裕福になれるのは一部の画期的なアイデアを生み出せる人間だけなのだ。
現場で汗水垂らして働く人間は、いくら働いても結局は代替え可能な労働者として使い捨てられる。
怒りを掻き立てられる内容で、色々と今の日本の政治の問題点を考えさせられたが、同時にこの映画に登場する人物はとても狭い世界で生きているのだとも感じた。
彼らにとっては山梨だろうと東京だろうとタイだろうと、どこへ行っても生きにくさは変わらないだろうと思った。
かなり重いテーマを扱っているのだが、不思議とそこまで悲壮感はなかった。
作り手が登場人物と同じ目線で物事を捉えているのが良く分かり、その彼らに寄り添う目線がそう感じさせるのかなと思った。
とはいえ3時間近い大作なので、さすがに後半はずっしりと心が重くなった。
この作品の中で登場人物はひたすらもがき続けるだけだ。
それでも彼らは骨太に生きていくのだろうと思わせる力強さがこの映画にはあった。
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