まさ

ある男のまさのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.8
謎に包まれた一人の男の正体に迫りつつ、人生の影に光を当てていくストーリーは、サスペンスというよりも、人生について考えさせられる重厚なヒューマンドラマ。自分ではどうにもならないものを抱えさせられた人生。窪田正孝演じる男、そして彼がなりすました男の背景を描きつつ、妻夫木聡演じる弁護士の背景をも描くことで、我々も皆それぞれに様々な背景を抱えさせられていることを改めて感じる。なのにそんなことは置き去りにして、背景ばかりに目を眩ませられて、目の前に向き合っている人そのものが見えていないことがなんと多いことか。背景をかなぐり捨てて生き直す男たちを生んだのは、私たちのその眼差しかもしれない。しかし、私たちの視野から目の前の人の背景を取り払って向き合うことなんてできるのだろうか。そんなことが突きつけられているような気がした。脇役陣も含めて、豪華かつ演技派な俳優たちがこの作品に厚みを与えている。そんな中で、息子役を演じる子役の温かさ溢れる演技が、事情や背景を超越した人の温もりを感じさせ、作品に救いを与えていたように思う。謎を残すように余韻を与える終盤の演出など、人によって評価や見方が変わるだろうが、それこそ本作らしい演出のように感じる。色々と考えさせられる贅沢な良作。
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