千年女優

ある男の千年女優のレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.5
元夫との辛い別れを経て宮崎県で文具店を営むシングルマザーで、最近越してきた物静かで心優しい谷口大祐に惹かれて再婚した里枝。幸せな生活も束の間四年後に彼を亡くした彼女が、死後訪れた彼の兄に彼が「谷口大祐」でない事を告げられ、在日三世の弁護士でかつて世話になった城戸の調査でその素性を知る様を描くミステリ映画です。

京都大学在学中に擬古文的な文体で芥川賞を受賞した『日蝕』を執筆してデビューした平野啓一郎のベストセラーを、以前から彼の作品を愛読していた『蜜蜂と遠雷』の石川慶監督が映画化した作品で、監督の過去作『愚行録』で主演を務めた妻夫木聡が複雑な役どころをこなして安藤サクラや窪田正孝ら実力派が織り成す物語を盛り立てます。

思想家気風の原作者と芸術派の監督のコラボとあって独りよがりが懸念されましたが、人類不平等起源論以来の命題である「生まれながらに持つ属性」の不遇をしっかりと盛り込みながら、推進力のあるミステリを展開しています。主題先行でサスペンスとしては些か強引な作劇はあっても重厚なキャストの熱演で説得力を与えている一作です。
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