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ある男のmのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

この国では殺人犯(死刑囚)の息子として生きるよりも、在日韓国人として生きる方が過酷で、地獄である(あるいは同じである)という事。それをこの映画は描こうとしている。だからこそ繰り返し繰り返し、在日韓国人差別やヘイトスピーチの描写が繰り返される。メインテーマは完全に日本の在日韓国人差別であり、そこに焦点を絞って映画は構成されている。親の罪から逃れる為に戸籍や名前を変えた窪田正孝に、差別を避ける為に帰化して名前も国籍も変えた在日三世である妻夫木聡が彼を調査する過程で自らを重ねていく、という流れはある意味似た流れである「凶悪」のそれよりも遥かに実感と重みがあり、描く価値がある。安藤サクラと窪田正孝の素晴らしい煌めきと彼女達の物語の幸せな結末が、妻夫木聡の今後も背負う人生の苛烈さをより残酷に実感させて、彼をラストの言動へと導いていく。ある意味幸せな窪田&安藤の物語が、もう一つの過酷な物語である妻夫木の人生の影を更に濃くする。言ってしまえば本筋の『Xの正体は?』というミステリーも実はどうでもよくて、全ては主人公がこの国での自らの人生の過酷さを再確認してしまう事へのお膳立てでしかない。感動サスペンスの裏に仕込まれた本当の物語の刃、それは安易な感動の消費を許さない。

安藤・窪田両名の圧倒的な良さ!この2人は序盤で映画の奇跡を起こしている。やり切れない感情を表現する妻夫木も流石の良さ。「愚行録」「蜜蜂と遠雷」に続き石川組との圧倒的な相性の良さを発揮する眞島秀和の怪演も必見、最高でした。
インディーズからここまで来たカトウシンスケ・松浦慎一郎も良かった。

そんな彼らに対して、何人かの俳優がどうしても目劣りしてしまう。清野菜名は彼女にとってはこれがベストと言えるくらい頑張ってはいるのだけど、それでも力不足は見えて正直河合優実と配役を交換した方が良かった。河合さんはこの役には勿体なさすぎる。小籔千豊は普通にミスキャスト。気合いの入った柄本明はオーバーアクトすぎた。


メッセージをテクニカルに分かりやすく語る事によりシフトした故に人物描写は割り切る所は割り切られて、石川監督の過去作にあった人間の曖昧な多面性は薄れている。その点では石川慶監督は素晴らしいデビュー作「愚行録」よりも後退している。いつもと違うカメラマンとも連携が微妙にズレていて、これまでよりも映画話術のキレがやや弱い。


良いショットもいくつかあるとはいえ、石川組のカメラマンは元の人に戻すべきだと思う。
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