嶽花征樹

ある男の嶽花征樹のレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.3
圧巻の演技力に裏打ちされた、人の想いがつまったミステリー。よくできた邦画という、日本独特の強み、面白さを堪能しました。

全体的に淡々としているものの、謎と人間描写のバランスが実によく、ストーリー展開は先の興味をそそる吸引力があり、いつの間にか二時間が終わっていました。

登場人物の演技があまりにもよく、実際に居そうな嫌な感じの人とかの描き方が絶妙。日常と離れていない地続きの世界を見せられているようで、どの人もうまくて心に迫るものがあり、何度か涙が出てしまうシーンもありました。

そんな中、出番は少ないものの、ひときわ異質な印象を見せる元詐欺師の演技が忘れられません。喋ってる口調も独特でしたが、視線だけで心の動きを見せる様や、本質を突きつけてくる慧眼さも兼ね備えていて、ここだけ日常から切り離されているようでいて、大きな本質を含んでるシーンとも感じました。

特に白眉なのがラスト。独特の余韻があって素晴らしかったです。

他のユーザーの感想・評価

ウサミ

ウサミの感想・評価

4.1
人間は、さまざまな環境や、関わる人物、生きている時代に左右され、多様な考えを持ち、個性を形成する。
しかし、その複雑な心情を他人が把握することは並大抵のことではない。

「その人が何者であるか?」
それは、「名前」というただの文字列によって“その人”の全てが定義されてしまう。

名前とは時に人に染み付いて離れない呪いとなり、その人の人生を蝕んでいく。

さらに、それだけではなく、その人の人種や、育ての親、生まれた家、それらの断片的な情報により、アイデンティティが勝手に定義されてしまうのだ。

最愛の次男を病気で失ったシングルマザーの元に現れた純朴な青年。
彼が彼女の心を癒し、2人は幸せな家庭を築くこととなる。
そんな幸せも束の間、事故の魔の手により彼は死亡する。
一周忌に現れた彼の兄は、遺影を見るや否や、「これは弟じゃない」と言い放つ。

観客に作品をのめり込ませドラマを描くためのバックボーンを、かなりテンポ良く、かつ丁寧に置いているので、ヒューマンドラマに感情移入しやすく、退屈が無い。

実は、本作のメインポイントは安藤サクラと窪田正孝の家族ドラマではなく、「死んだ夫は何者なのか?」を追う妻夫木聡のドラマにあった。

妻夫木聡はやり手の弁護士で、人当たりが良く慈愛に満ち、死刑制度に対して人道的観点から廃止を考える人権派だ。
綺麗なマンションで、美しい妻と小さな息子と3人暮らしで幸せに暮らしている。

しかし、彼のその順風満帆な人生に、小さなシミがこびりつき、小さな棘がチクチクと針を刺す。
彼はそれを笑って受け入れ、黙って飲み込む。

どこまでも真摯な男は、過去に離婚調停で関わったことのある安藤サクラから依頼を受け、死んだ窪田正孝の正体を探り始める。
そして、戸籍交換の斡旋により逮捕された男の存在を知り、事情聴取のために対面することになる。

柄本明演じるその男は、なかばハンニバルレクターのような佇まいで、妻夫木聡の心の闇を暴き出そうとする。つくづく、『羊たちの沈黙』とアンソニーホプキンスの凄さを感じ入る。

彼が持つコンプレックスは、社会に満ちる理不尽を体現し、彼の精神を蝕んでいく。
社会の矛盾と、自分自身に潜む闇と、静かに対峙する男に、妻は寄り添おうとしない。

彼が闇に堕ちる危うさを漂わせながらも、彼が追い求める真実は、決して悪の道に観客を連れて行こうとはしない。
安藤サクラとその息子、そして窪田正孝の三者のひたむきな愛は、決して一線を超えることはなく、観客を失意に落とすことはなかった。
ヒューマンドラマは愛に満ちた様相を繰り広げ、大団円を迎える。
ただ、妻夫木聡に残る冷たくドス黒い感情を残して…

「深淵を覗き込む時」シリーズはよくあるが、本作はその絶妙な揺蕩いと、うっすらと潜む闇を静かに暴き出すのがとても上手く、丁寧だった。

しかし、個人的には上記の「光と闇」のドラマの平行により、どっちつかずになってしまった印象で、結局何だったんだ?という感想を持ってしまった。
ヒューマンドラマへの感動も、サスペンスへのゾクゾク感も、どちらも肩透かしな印象。俳優の演技が素晴らしいので見応えはかなりあるが。

ラストの展開は見事だと思うし、しかし同時に、なんか蛇足な気もする。難しいな。

個人的には、作品の焦点をもう少し絞って欲しかったかも(できれば妻夫木聡側に)。
MidoriK

MidoriKの感想・評価

3.6

このレビューはネタバレを含みます

ポスター見たら安藤サクラがメインなのかなと思ったけどそうでもなかった。前半は窪田正孝、後半は妻夫木聡が持ってった。

窪田正孝、この役大変だったんだろうなーと思ってしまうような演技だった。
Nのためにの時と同様、影のあるキャラクターが本当にハマるね。
特にX くんの時の演技、ボクサー時代は特に苦しそうだった。
そこから比べるとサクラちゃんとの結婚生活は別人かってくらい明るかったので、本当に幸せだったんだなと思う。
父親役の演技がゾワッとした。血まみれで出てきた時、ドキドキした。


だから窪田正孝一色で終わるのかなーと思っていたら、妻夫木聡がじわじわと侵食してきて最終的に彼の話で終わらせてしまった。
在日の話とか、やたらとそういう話が多いなと思って見てたけど、妻夫木聡が演じている弁護士役の立場を際立たせる必要があったのかなと思った。
特に癖のある演技とかしてなかったのに、空気の流れを自分の方に変えてしまうのがすごい。
「来る」のモラハラ夫の時のような(キャラは全然違うけど)、ジョーカー的な演技でした。

仲野太賀演じる谷口大祐も、窪田正孝演じるXも、妻夫木聡演じる城戸彰良も、自分が好きだった人から自分の存在を否定されて、嫌になっちゃったんだろうな。
だったら他の誰かになって、自分が自分であったことを忘れたい、と思う気持ちはわからなくもない。

サブキャストが全員いい味を出していた。サクラちゃんの息子役の子が上手かった。
柄本明怖いよう。
ねねこ

ねねこの感想・評価

4.5
本日2本目はこちら。原作未読。

これはもう凄かった。
安藤サクラさんの『どこにでもいそうなシングルマザー』感ほんと…演技なのに自然体とかよくわからんな?妻夫木聡さんの感情を抑えた演技も凄かった。後半で少しずつ出てくる『怒り』の表現もよかった。窪田正孝さんはねーいやもう言葉にならないです。凄すぎて。柄本明さんはただただやばかったし、あと個人的には悠人くん役の子がよかったな◎

まとめ記事とか読んだけど、原作を読むと軽くしか触れてない背景とかわかりそう?なので、補完するために近いうち買って読もうと思います‎(•' '•)و✧
Asai

Asaiの感想・評価

4.3
観る前はミステリーかと思ったけど、そんな単純な話ではなかった
重たいテーマが軸となっているけど、意外にテンポ良く真相が明らかになっていく展開に引き込まれた
強いていうなら、仲野太賀演じる役の生い立ちをもう少し描いて欲しかった
300年生きている人の意味が分かってゾッとしたし、ラストシーンでさらにゾッとした
今年観た中でも指折りの作品
私はこの監督の作る映画が好みっぽい
ただただめちゃくちゃ面白かった。
ストーリーも面白いし、出演者たちの抜群の演技と、その感情がより伝わる様な画の撮り方で、映画というものの魅力を一層感じた。

戸籍や血筋により社会から押し付けられるアイデンティティと、自認するアイデンティティの中で生まれる葛藤と苦悩や、社会の中にはびこる無自覚な偏見や差別意識などがとても切れ味鋭く表現されていた。

感動して涙したり、ゾワゾワとしたり、色々な感情にさせられた。

エンドロールの時に誰も立ち上がってる人がおらず、というかすぐに立ち上がれない程の余韻を残す衝撃的なラストに圧倒された。

多くの人に観てほしいと思うし、観られるべき、語られるべき作品だと思う。
本当に面白かった。
友人と。
自分のことが嫌になって友達になってみたいって思ったことはよくある。
でもその人の人生まで、、とは深く考えたことが無かったかも。
他人と戸籍を、人生を、入れ替えるって相当の思いがないとできないなぁって思った。
あと、差別も無意識のうちに自分もしているかもしれないって思った。無意識って便利やけどすごく相手を傷つけてるかもしれないなぁって。
最後の最後こうなるのかぁってすごい腑に落ちた作品。
と

との感想・評価

4.0
死んだ夫が別人だった、その真相はこうでした。だけでは終わらない作品で観てて飽きなかった。色んな要素が複雑に絡み合ってて色んな感情になったしとにかく引き込まれたな…。おもしろかったのに言葉で表すのが難しい。マグリットの絵もめちゃくちゃ良い仕事しててラストは余韻に浸ってしまった。
shige

shigeの感想・評価

4.2
役者陣、ショット、空気感全て素晴らしすぎて、最初から最後まで全く目を離す瞬間が無かった。
妻夫木聡と柄本明のシーンは痺れるシーンだったなぁ。

柄本明演じる小見浦の手の跡がじわぁっと消えていくショットがずっと頭に残ってる。
hasetako

hasetakoの感想・評価

3.8
初めての石川慶監督の映画。ゆるい画が全く無くて驚いた。ヨーロピアンビスタサイズの映画最近何を見たかな、思ったらブレッソンの『湖のランスロ』だった。ブレッソンぽさはあるかもしれない。スタンダードよりは広く、アメリカンビスタより狭いサイズが良く活きてた気がする。場面の中心となる人物が画面の端の方にいても画面サイズのお陰でだだっ広くならない。まあそれも良し悪しだと思うけど、この映画ではそれが良い方に働いていた。ラストシーン、妻夫木聡がルネ・マグリットの『複製禁止』を眺める画。これを撮る為のヨーロピアンビスタだったんだなあと思う。
役者もみんな良かった。真木よう子はやっぱり最高。
日本映画シーンにおける最重要監督の一人、石川慶の新作『ある男』を観ました。

原作者・平野啓一郎が掲げる「分人主義」が今作のメインテーマになっていて、とてもシリアスでヘビーではあるけれど、しっかりと希望も感じさせてくれる作品だった。

追って、年間ベスト10の記事でレビューを書きます。
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これだけ時間経ってても忘れられないくらい、衝撃的な作品でした。

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5.0

究極のファンメイド映画であり、任天堂のゲームを楽しんできた”全ての年齢の”子供たちへのご褒美みたいなものですね。

百点満点換算で1億点です!

詳しい感想はブログで書いてます。
https://ta
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