なんゆう

ある男のなんゆうのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

「差別」や「偏見」がテーマの作品。
複数人を殺害して死刑になった親の子が皆そうだとは思わないけれど、違う人の人生を歩みたいという気持ちになっても不思議ではない。
知らない他人と戸籍を交換し、その他人の経歴をかたって生活するのは、その他人でも、もともとの自分でもないアイデンティティの確立のためであり、それを望む人々がいるがゆえに、戸籍の交換を仲介をする、世間の裏側の人間もいるということなのか。
妻夫木聡演じる弁護士は帰化した在日3世だが、刑務所に尋ねた柄本明演じる詐欺師から、在日だと見破られる。
もし誰かが出自が在日であることを隠したくて戸籍交換をしたとしても、外見で判断されるのならした意味がなくなるのでは?きっと、そうではなく、世間の裏側でいろいろな人物を見ていると、戸籍を交換し、他人の経歴をかたったとしても、そうであることが分かるのだという意味なのだろう。
自分ではどうするのこともできない差別や偏見の対象となる「束縛」から解放されて、「自分」らしく生きられた「ある男」はその間、確かに幸せだったに違いない。その人生を否定する権利は誰にもない。弟の名前を騙られた温泉旅館の長男といえども非難してはならない。安藤サクラ演じる女性の「分かってしまえばですけれど、あの人がどこの誰かなんて、どうでもよかったんです」という台詞が、とても象徴的だった。
ただ、本当に「束縛」から解放されずに苦しんでいる人たちがいるとすれば、私たちはどうすればよいだろうか。私たち自身が差別や偏見を生み出しているとしたなら、どうすればよいだろうか。

本作品が日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞したのは、ラストシーンで見たようなモヤモヤ感を残すことのできる映画だったからではないかと感じた。
(追記)点数をつけ忘れていたので、つけました。
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