よつ

ある男のよつのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.8
原作は芥川賞受賞作家の平野啓一郎。
氏の唱える「分人主義」を踏まえて観るとより面白い。
分人主義とは、人間の有り様は接する相手によって変わるものであり、“本当の自分”という絶対的なものはないとする考え方。
Aの前では横柄だが、Bの前では謙虚。Cの前では優しいが、Dに対しては厳しい…みたいな。
出自やアイデンティティに苦しむ男の話が群像劇で描かれる。

設定や導入部はかなり面白いと思ったが、その後の展開に特に盛り上がりはなく、淡々とした調子で終わった。

序盤は安藤サクラ、中盤は窪田正孝、終盤は妻夫木聡と主人公が移行していく。
脚本の妙はあまり感じられなかったが、主演三人をはじめ俳優陣の演技は素晴らしかった。安藤サクラの息子役の坂本愛登、ボクシングコーチのでんでんも良かった。柄本明はネチネチしつこかった。

妻夫木演じる弁護士は、何が目的で人捜しを買って出たのだろうか。
人捜しは辛いことを忘れられる現実逃避だったと言っていたがそれは後付けであり、そもそも安藤サクラと妻夫木との親密度もよくわからなかった。
またあれだけ長期間の調査の報酬や交通費を安藤サクラが出せるとは思えないため、手弁当でやっていたのだろうか。

ラストの渋い演出は良かった。無いものねだりというか、人は皆自分の人生に満足することなどないのかもしれない。
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