ミミック

ある男のミミックのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

普通に日本で生きてたら見えづらい、むしろフィクションだから掬える。殺人者の息子の人生、在日三世が受ける日常の中のヘイト、今の人生を捨てて戸籍を交換する人達、意図せず名字が何回も変わってしまった子供。皆自分の人生を生きるのに精一杯で、何なら生きているうちから別の人生だったり別世界へ行くことを夢想したりする。少し前から急増した転生アニメもその影響だったりするのだろうか。訳ありの過去を持つ人でなくても、ネットでは複数のアカウントを使い分けそれぞれ別の名前で登録してる人はざらにいる。自己と分離した自分を持つのがむしろ当たり前になった時代とも言える。人の過去を知ることがそんなに必要ですかと問われている。谷口大祐が宮崎で過ごした最後の期間は幸せだったと城戸が里枝に告げるシーンに真実味を感じた。撮影、キャスト、編集、どれを取っても素晴らしい。冒頭の文具店での大祐と里枝の出会いがとても繊細で丁寧で美しいお気に入りのシーン。刑務所で小見浦と面会する際に通る長いトンネルみたいな通路が、まるで自分の見てきた世界とまるで違う異界に足を踏み入れるようで印象的だった。ラストのバーにて自分をさも谷口大祐かのように振る舞う城戸の行動は、一人の人生を細かく調べる彼の職業ならではの嗜みの一つと捉えたけど、それほど谷口大祐の人生に心酔し己と重ね合わせていたんだろうな。幸せそうにみえる人が本当に幸せとは限らない。決めつけで人と接してはいけない。愛するということはどういうことなのか考えるきっかけを多く貰えた。マグリットの絵の前で佇む城戸を捉えたショットはこの映画そのものを表した秀逸なショットだった。
ミミック

ミミック