ちゃんさわ

ある男のちゃんさわのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

平野啓一郎による同名小説を映画化。

人は過去との連続性によって自己を形成し、他者を判断し、社会を構成する。その絡みついた属性とともに生きていくしかないのだが、本作はそこから脱しようとした男と、その試みに惹かれていく男の物語であった。

安藤サクラ演じる里枝と窪田正孝演じる大佑が出会い、幸せな家庭を築いていくシーンがまず美しい。その後、大佑の事故死によって崩れる平穏と、葬式の過程で里枝が直面する”自分の愛した男は大佑ではなく、全くの別人だった”という事実から物語はドライブし、妻夫木聡演じる城戸弁護士が登場すると真相の謎解きがスタートする。

やがてそのトリックは戸籍交換だと判明するが、本作で重要なのは手段ではない。城戸は、大祐に成り代わっていたXが抱えていた死刑囚の息子という壮絶な過去と、本物の大祐を苦しめる家柄と家業の問題を突き止め、戸籍交換に至った経緯を理解すると同時に、自身の在日3世という属性と、妻の両親を始めとして日本社会の根底にうっすらと流れている嫌悪感をひしひしと感じながら生活している。世間の声はやがて自分自身の声となる。柄本明演じる小見浦との対話は、ほぼ城戸自身の葛藤にも思えてくる。手の熱による蒸気でテーブルに残った手形を映すシーンが印象的で、熱は時間が経てば消えるが、痛みや過去は残り続け、城戸は逃避願望に駆られていく。

ルネ・マグリットの『不許複製』が非常に印象的かつ不気味だし、邦画とは思えないほど素晴らしいルックが効果的である。

その一方で、里枝とXの間に愛は確かに存在したと分かるシーンで、戸籍交換した彼らが多少なりとも幸福な時間を過ごせたという事実に胸が熱くなった。

レビューを書くにあたって色々調べていたら、坂本愛登は『不適切にもほどがある!』のキヨシであるということに気付き、河合優実とは既に本作で共演していた事実に驚いた。(一緒のシーンは無いが)

https://www.tbsradio.jp/articles/63013/
https://www.gqjapan.jp/culture/article/20221117-a-man-hirano-tsumabuki
https://www.yomiuri.co.jp/otekomachi/20221122-OYTET50010/
https://jp.ign.com/a-man-movie/63934/feature/
https://www.cinra.net/article/202311-a-man_iktaycl
https://moviewalker.jp/news/article/1111994/
ちゃんさわ

ちゃんさわ